進むクルマのIT化と、カー・ハッキングの危機を考える:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/4 ページ)
ドライブするとき、スマホをつないだり、USBメモリを挿して音楽を聴くという人が多いはず。しかしクルマのIT化が進む現代、もしそこからウイルスが侵入してクルマが乗っ取られたとしたらどうなるだろうか。
クルマに乗って音楽をかける時、ソースは何を使うだろうか? さすがに今時カセットテープという人はほとんどいないだろうが、もはやCDも少数派のはずだ。おそらく、スマートフォンをBluetoothで接続して使っている人や、USBメモリやSDカードなどの半導体メモリを使っているという人が多いだろう。
「こういうのってクルマにウイルスが侵入しそうで嫌なんですよね。大丈夫なんでしょうか?」という質問を、ここのところ何度か受けた。
確かに音源はおおむねiTunesかPC経由でデバイスにインポートされるわけだし、半導体メモリからというのはある意味“鉄板”のウイルス侵入ルートなので、クルマがウイルスに感染するリスクはゼロとは言い切れない。
2015年現在の話としては「カーナビやカーステレオを経由して、クルマが悪意を持った人間にハッキング※される」というストーリーを心配する必要はなさそう(理由は後述)だが、現代のクルマはコンピュータ制御の部分が増えて、どんどん賢くなってきているのも事実。もうちょっと未来の話になると、必ずしも空想の夢物語とは言えない状況になりつつあるのだ。
もし自動車がハッキングされたら、何が起こるのか
もしもクルマがハッキングされたら、どんなことが起こるのか? まずはそこから考えてみたい。
現在のクルマは、多くの操作系が電気的に接続されている。例えばアクセルペダルは、センサーにつながっていて、アクセルの踏み込み量や踏み込み速度を感知し、スロットルバルブを制御するのはモーターだ。もしそのコントロールをウイルスに乗っ取られたらどうなるだろうか?
ブレーキだって安心できない。メインの油圧回路はブレーキペダルと物理的につながっているものがほとんどなので、一見すると操作そのものには電気を用いていないように感じるのだが、アンチロックブレーキ用に電気的に油圧をコントロールするアクチュエーターが設けられている。路面の摩擦力に対してドライバーが強くブレーキを踏みすぎてタイヤがロックした時、車輪の回転速度を測るセンサーからのフィードバック信号によって、油圧を逃がしてタイヤのグリップを回復させ、回復したら再度油圧を上げる。つまりブレーキのコントロールは電気的に行われている部分があるのだ。仮にここを乗っ取られたらどうなるだろうか?
最悪のケースとして考えられるのは、レーダークルーズの乗っ取りだ。前述の加速と減速に加え、レーンキープアシストのステアリングコントロールまで奪われたら大変なことになる。「走る、曲がる、止まる」の3つ全てが奪われることになるからだ。
ただし、ステアリングに関してはドライバーがステアリングをしっかり握っていさえすれば大事には至らなそうだ。レーンキープアシストの仕組みは、電動パワステのモーターに制御系から電気信号を送りステアリングを操作するものだが、通常ドライバーがステアリング操作をすればキャンセルされる仕組みになっているからだ。常識的にはその優先権ごと乗っ取られることは考えにくい。それでも無警戒の時にいきなりステアリングが勝手に動き出したら……乗員にとってリスクゼロとは言えない。
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