進むクルマのIT化と、カー・ハッキングの危機を考える:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
ドライブするとき、スマホをつないだり、USBメモリを挿して音楽を聴くという人が多いはず。しかしクルマのIT化が進む現代、もしそこからウイルスが侵入してクルマが乗っ取られたとしたらどうなるだろうか。
今は大丈夫だが……
クルマの電子制御系統は現状大きく3つに分かれている。エンジン制御系、シャシー制御系、インフォテインメント系だ。
エンジンとシャシーの説明は要らないだろうが、インフォテインメントは少々補足が必要だろう。インフォテインメントとは、情報のインフォメーションと、音楽や映像などのエンターテインメントをつなげた言葉だ。具体的にはメーター内の車両情報(速度やエンジン回転数、ギヤポジション、水温など)、カーナビ、オーディオ、空調などをひとまとめにして情報表示や操作をできるようにしたものだ。先ほどスマホやUSB、SDカードが接続されると書いた通り、外部からのウイルス侵入やハッキングのリスクにさらされるのは、このインフォテインメント系系統ということになる。
しかし、インフォテインメント系統は、通常エンジンやシャシー系の制御システムと切り離されており、通信は双方向になっていない。情報伝達はエンジン&車両制御側からインフォテインメント側への一方通行の仕様になっており、インフォテインメント側からエンジン&車両制御側をコントロールすることはない仕組みになっているのだ。さらに万が一に備えて、各システムの間にはファイアウォールが置かれ、万全を期している。
つまり、仮にウイルス感染した音源デバイスをカーナビにつないだとしても、ウイルスは車両の中枢部分に入っていくルートがない。現状は安心していい。しかし、実はこの“一方通行通信”が揺らぎ始めているのだ。近年各自動車メーカーが、自動運転実験に取り組んでいるためである。
自動走行、自動車のネットワーク化……自動車のIT化が進む
アウディは、無人の自動運転車でサーキット走行をさせ、その公式動画をYoutubeで公開している。
この動画の車両はアウディRS7だが、この他にもスタンフォード大学がアウディTTに自動運転システムを組み込み、アメリカのサーキットでアマチュアレーサーにタイムで勝ったことを発表している。もちろんもっと難しい条件の一般的な道路で混合交通の複雑な状況に対処できるようになるにはまだ時間がかかるだろうが、ハードウエア的にはすでに自動運転は現実の世界にあると言える。
しかし自動運転車両を商品化するためには、法律や保険など現行の制度を大幅に刷新する必要があり、自動車メーカーの技術だけでは実現できない。そのため、自動車メーカーは関係各所に向けて、自動運転のさまざまなデモンストレーションを繰り返し、技術的可能性を世に問おうとしているわけだ。
確かに自動運転には大きな可能性がある。一般道を走らないまでも、例えば駐車場の入り口でクルマを降りると、クルマが勝手に空きスペースを探して駐車し、帰りにはリモコンスイッチでクルマを呼び出せる「自動運転バレットパーキング」のような仕組みも技術的にはすでにできている。“無人のクルマが公道をスイスイ走る”という話でなければ、限定的に法整備が進む可能性は十分にある。
また、周囲を走行している他の車両とネットワーク接続し、他のクルマのセンサー情報を共有することで、自車位置からは絶対に見えない位置の障害物情報を取得したり、ルート上の事故や渋滞情報を利用して安全性を増すことが可能になる。例えば、数台前のクルマが、何らかの障害物に対して急ハンドルや急ブレーキで対処したというデータが共有できれば、玉突き事故の回避などもできる。自動運転システムや車両情報ネットワークの活用によって、現在より事故のリスクが減らせることが明確に証明できれば、安全装置として普及する方向も考えられる。
つまり、自動運転とネットワーク化によって自動車が新しいステージに入り、飛躍的に利便性を高める可能性は大いにあるのだ。
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