進むクルマのIT化と、カー・ハッキングの危機を考える:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)
ドライブするとき、スマホをつないだり、USBメモリを挿して音楽を聴くという人が多いはず。しかしクルマのIT化が進む現代、もしそこからウイルスが侵入してクルマが乗っ取られたとしたらどうなるだろうか。
「カー・ハッキング」はなぜ脅威なのか
クルマの場合、コンピュータと違って、ハードウエアの耐用年数が10年以上ある。中古車を買えばリバースエンジニアリングは十分にできる。
われわれユーザーにとってはまだ、現実の心配は要らないクルマのハッキングだが、メーカーのレベルで考えると、すでに現実的な脅威になり始めているのだ。
そんな手間のかかることをしてまでクルマのハッキングをする必要があるかどうか? 前述のように自動運転とネットワーク化のポテンシャルが高いだけに、実用化に至ればメーカーの株価が大きく動くのは間違いない。もしそこでハッキングというスキャンダルが流れれば、株価の暴落は避けられない。仮に株価操作を狙って、組織的にカーハッキングを行い、新技術の信用を傷つけることができれば、莫大なサヤ稼ぎが可能になるだろう。
ネットワーク化を見据えて、自動車メーカーでもファイアウォールの強化など、基礎的なハッキング対策はすでに始まっている。2012年には世界各国の自動車メーカーに部品を提供しているドイツのボッシュが、システムデータの暗号化を専門にする会社を傘下に収めた。正確に言えば、ボッシュの子会社であるETASが、組み込みシステム向けセキュリティ技術とソリューションに特化したシステムハウスESCRYPT GmbHを買収したのだ。
ハッキング対策としては、まずデータの暗号化が最初だ。リバースエンジニアリングをさせない。あるいはウイルスに扱えないデータにするわけだ。しかし、自動車メーカーとしてはそれだけでは困る。万が一セキュリティを破られた時には、ハッキングされたログをきちんと残して、自らも被害者であることを証明しなくてはならないからだ。
こうした取り組みはまだまだ散発的なものだが、それだけに様々な企業にとってビジネスチャンスでもある。例えばパソコン系のセキュリティ大手、トレンドマイクロでも自動車のセキュリティソリューション開発への取り組みが始まっている。「クルマのハッキング? そんなことは絶対起こらないよ」と鼻で笑っていられる状況には、すでにないのだ。
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