人手不足が深刻な宅配企業、次の一手は?:新特集・進化する物流ビジネス最前線(1/2 ページ)
ネット通販の普及によって宅配便の取り扱い個数が急増。併せて顧客サービスの拡充にも取り組んできた宅配企業は今、現場が限界を迎えつつある……。
2013年春、宅配大手の佐川急便が悲鳴を上げた。現場配達員の作業負荷が増大し、その重みにいよいよ耐えられなくなったため、ECサービス最大手であるアマゾンとの取引を打ち切ったのだ。背景にあるのは深刻な人手不足である。
この“衝撃”はまだ終わらない。2014年4月1日からの消費税増税を前に駆け込み需要が発生。同年3月から4月にかけてネット通販など商品の配送を伴う注文が消費者から殺到して宅配各社の物流網がパンク、期日を過ぎても荷物が届かないということが多発した。例えば、あるインターネット企業では新入社員に配布するノートPCが納期に間に合わず、当面はPCなしで仕事しなければならないという異例の事態が起きたのである。
15年間で宅配便量が2倍に
2000年前後から急速に普及したネット通販により宅配便の物量は急増。国土交通省の調べによると、1998年に18億3300万個だった宅配便取り扱い個数が、2013年には36億3700万個とほぼ倍になった。それと同時に多様化する顧客ニーズに対応すべく、配達時間の指定やコンビニエンスストアでの受け取りなど宅配各社ともきめ細やかなサービスを拡充していった。
「かつては荷物を届けるだけの役割と見られていたのが、B2BからB2Cへと事業領域を広げる中で、今や顧客のタッチポイントとして付加価値サービスを提供する存在となった」と、物流業界に詳しいアビームコンサルティング 執行役員 プリンシパルの赤石朗氏は説明する。
宅配便の物量増は売り上げにも影響する。ヤマト運輸を中核とするヤマトホールディングスのデリバリー事業は4年連続で営業収益が右肩上がり。2015年3月通期の業績予想では対前年比0.4%増の1兆1040億円を見込む。また、営業利益は同16%増の415億円、宅急便取り扱い数量は16億3200万個、宅急便単価は595円を予想している。
佐川急便の持株会社であるSGホールディングスは、ここ数年デリバリー事業の売上高を下げているものの、2015年3月期通期のグループ全体の業績を売上高8500億円(対前年比1.8%増)、営業利益440億円(同1.4%増)、当期純利益230億円(同38.1%増)と予想、巻き返しを図りたい考えだ。荷物の取り扱い個数はアマゾンとの契約解消などの影響で、2014年3月期実績では飛脚宅配便が12億1878万個(同10.2%減)だったが、単価は486円に上昇している。
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