KADOKAWAが「復刻版 戦中戦後時刻表」を“再復刻” ただし販売は未定:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
出版・映像メディア大手のKADOKAWAは、クラウドファンディングの手法を取り入れた受注販売サイトを3月30日に公開した。スタートアップの品目は3つ。その中に「復刻版 戦中戦後時刻表」がある。
ただの再販売ではない「再復刻」の価値
ketsujitsuは「出版社が小ロットの再発行を可能にする」というビジネスモデルとしても興味深い。実際、「復刻版 戦中戦後時刻表」は、従来の出版社のビジネスでは通用しない商品になっている。
付録として「満州支那汽車時間表(昭和17年)」「朝鮮鉄道時間表(昭和19年)」がついている。「満州……」は「あじあ号」の時刻が掲載されている。「朝鮮……」は戦時体制で、鉄道の撮影や描写の注意が記載されているとのこと(出典:ketsujitsu)
初版は1000セットが制作されて完売とのことだった。これは定価と損益分岐点を考慮した最小ロットだろう。仮に書店の粗利が2割、取り次ぎ店の粗利が1割とすれば、出版社の売り上げは7割で2520万円。完売すれば成功だけど、売れなければ在庫リスクになる。それでも初刊行の1999年は1000セットの制作で損益分岐点クリアの見込みが立った。戦中戦後の時刻表を懐かしいと思う人々がいたからだ。
それから15年が経ち、戦後70年となった今、戦中戦後の日本と満州鉄道の時刻表を懐かしむ人は少ない。ここがJTBパブリッシングが展開する電子書籍版の時刻表との違いだ。JTBパブリッシング版は鉄道開業時と1958年版のほかは新幹線開業以降が多い。当時を懐かしむ人が存在し、票が読める状況だ。価格も1000円台で手ごろである。
しかし、「復刻版 戦中戦後時刻表」に関心があるとすれば、鉄道ファンのうち、時刻表が好きで、なおかつ、歴史に興味を持ち、資料的価値を見いだせる人に限られる。私のような鉄道分野のライター、鉄道や歴史の研究家などだろう。大学図書館に置くべき本とも言える。
こうなると再刊しようにも票が読めない。でも、事前に希望者を募るクラウドファンディング的な手法なら、最低限の損益分岐点を設定し、過去の優良コンテンツを使ってビジネスができる。広告費を使って商品をバラ撒いて、という在庫リスクの高い手法によらずとも、良質な本を欲しい人に届けられる。これは消費者側としても魅力的だ。当時は購入を諦めた本を「新品」として入手できるからだ。
関連記事
- 新連載・杉山淳一の「週刊鉄道経済」:クラウドファンディングで鉄道遺産を守れ!
ビジネスのスタート資金調達として定着しつつある「クラウドファンディング」が、鉄道分野でも活用されている。北海道では有志が電車の保存を呼び掛けて、3日間で300万円以上を集めた。 - どこが違うの? 『JR時刻表』と『JTB時刻表』
書店で発売されている「時刻表」は数種類ある。そのうちの2冊、交通新聞社の『JR時刻表』とJTBパブリッシングの『JTB時刻表』は売り場で目立つ。判型も価格も同じ、掲載されている列車の時刻も同じ。そんな商品がどうして2種類も存在しているのだろうか。 - 「普段と同じ」をさりげなく 東急多摩川線の「キヤノンダイヤ」が見事
この夏、東急電鉄が興味深い施策を行った。7月7日から9月26日まで、平日早朝に東急多摩川線と池上線で増発した。その理由は意外にもキヤノンが関係していたらしい。調べてみたら、これはなかなか粋な施策だった。 - 時の記念日に寄せて──「時刻」と「時間」、きちんと使い分けていますか?
"時刻"と言うべきところを"時間"と表記する事例が横行している。「メールを作成した時間は10分です」は正しいけれど「メールを送った時間は10時10分です」は間違い……のはず。時刻表ファンにとって、これが気になって仕方ない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.