アシアナ航空の謝罪会見が遅かった背景に「3つの要素」:スピン経済の歩き方(1/5 ページ)
アシアナ航空162便が広島空港で着陸を失敗して、乗員乗客27名が負傷するという事故が起きた。アシアナ航空側の「広報対応」があまりにも遅いが、筆者の窪田氏は「その背景には3つの要素がある」という。それは……。
スピン経済の歩き方:
日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。
「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。
そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」を紐解いていきたい。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで100件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
4月14日午後8時5分ごろ、アシアナ航空162便が広島空港で着陸を失敗して、乗員乗客27名が負傷するという事故が起きた。
搭乗していた乗客によると、韓国の仁川(インチョン)空港を出たエアバスが広島空港に着陸する5分ほど前に機体が大きく揺れ、着陸した途端にバーンという大きな音がしたという。窓の外には火柱がたち、床から煙が出て機内は大パニックになり、「死」を意識した乗客も多かったとか。
事故原因については、これから運輸安全委員会の調査で明らかになっていくのでこちらからとやかく言うことではないのだが、ひとつ不可解なことがある。
アシアナ航空側の「広報対応」があまりにも遅いのだ。
事故翌日の15日、「搭乗客ならびに国民の皆様にご心配とご迷惑をおかけしたことについて、謝罪申しあげます」とするコメントを出しただけで、しかるべき立場の者が取材対応をするということはなかった。そこからさらに日付をまたいだ16日、ようやく広島空港で山村明好・安全担当副社長が謝罪会見を行ったのである。
ご存じのように、アシアナ航空は2013年にボーイング777型機がサンフランシスコ空港で着陸に失敗し乗客3名が亡くなっている。原因をめぐっては米国家運輸安全委員会(NTSB)と一悶着あったが、「パイロットの操縦ミス」という結論が出ている。2年も待たずに再び起きた事故ということに加えて、これだけ大きな被害ということも加味すれば、イメージをこれ以上悪化させないようスピーディーな謝罪やらをしそうなものだ。
しかも、頭を下げた山村副社長は2013年の事故を受けて安全体制の見直しのため一昨年12月に呼ばれた全日空出身の元パイロット。事故対応のキモも知り尽くしたプロがいながらも「後手」にまわっている印象があるのだ。
2013年の事故の時は迅速だった。発生からほどなくソウル本社で当時の尹永斗社長(ユン・ヨンド)が会見にあらわれ頭を下げた。それだけではない。翌日には現地でアシアナのCAさんたちがメディアの前に現れて記者の囲み取材に応じている。彼女たちはいつ爆発をしてもおかしくない機体からパニックに陥った乗客を落ち着かせて、どのように避難誘導したのかを雄弁に語った。
なかでも客室乗務員責任者のイ・ユンヘさんは、自身も衝撃でお尻の骨を折っていたが、その痛みに気づかぬほど乗客の救助に没頭としていたとして、サンフランシスコの消防当局幹部から「彼女は英雄だ」と褒めたたえられた、と韓国のメディアで報じられている。
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