どうなる日本? 新時代を迎える自動運転技術:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/3 ページ)
通常の交通環境下で、一般のドライバーが乗るクルマを自動運転させる――ボルボが本格的に、自動運転車の普及に取り組み始めた。スウェーデンは国をあげてこのプロジェクトをサポートしているが、日本の自動車メーカーはこの流れについて行けるのだろうか。
どうする日本?
実は自動運転について、昨年末にボルボのエンジニアに質問したことがある。日本法人のエンジニアがその時点でこのプロジェクトをどこまで知っていたかは定かではないし、仮に知っていても話すわけにはいかなかったとは思う。しかしその時ボルボのエンジニアはこう言った。
「自動運転は技術的にはもうかなりのところまで来ています。しかしそれを実現するには、社会全体の制度が変わらないと難しいのです」
実際、今回の実験も、議会や国の行政機関、市当局などの協力を得て成立している。実用化の段階になれば保険会社の協力も欠かせないだろう。
スウェーデンは国ぐるみでボルボをサポートし、次のステージに進もうとしている。それは究極的な目的「衝突事故のない未来」へ向けた、国家レベルの取り組みなのだ。
人間はエラーを起こす。ボルボの統計調査によれば、追突事故の原因は93%が前方不注意によるもので、しかも事故を起こしたドライバーの47%が事故回避行動をとっていない。米国高速道路安全保険協会の報告では、衝突軽減ブレーキの装着車では、事故は最大で22%減少するといい、衝突軽減ブレーキ搭載車について調べると搭乗者傷害保険の請求が51%、車両の修理費は20%減少したという。スウェーデンがこの自動運転プロジェクトに国を挙げて協力をするのは、こうした実例に基づく判断によるものだ。
それでは日本ではどうか? 日本のメーカーの技術レベルは高い。ボルボの自動運転を実現している要素技術のほとんどは、日本のサプライヤーがカバーできるだろう。しかし、スウェーデン同様に国ぐるみの協力ができるかどうかは、甚だ疑わしい。あまり紋切型の批判はしたくないが、日本の自動車メーカーの足を行政が引っ張ってしまうことがとても怖い。
ボルボの発表を受けて、ライバルのドイツは早急に対策をまとめてくるだろう。ドイツの自動車メーカーと政府はこれまでも衝突安全試験がらみで何度も見事な連携をしてきた。衝突安全試験に突如クルマの半分ずらしてぶつけるオフセットクラッシュ項目を設定して世界中のクルマの安全テストを行い、ドイツ車の安全性がいかに優れているかを喧伝してきた。
テスト結果を見れば、ドイツメーカーとドイツ政府がテストの内容を決め、ドイツメーカーが好成績を収めることを確認してから突然テストを行うという、ある種の出来レースに見えるのだが、そこは「実際の衝突事故は完全な正面衝突より、互いに半分ずつズレてぶつかるケースが多いのだ」と言われれば正論だけに反論できない。
ましてや自動運転でボルボと最先端を争っているのは、他ならぬベンツである。ドイツが指をくわえてみているようなことはあるまいと筆者は率直に思う。
日本の自動車メーカーがこの新たな時代に生き残れるかどうか。それは、日本の政治と行政が、世界の水準についていけるかどうかにかかっている。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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