「ハラル認証」手続きと運用体制の整えかた(前編):新たなビジネスチャンス(3/3 ページ)
食品業界を中心に注目が集まるハラル認証。そもそもハラルとは何か。認証取得によってどんなメリットがあるのか。制度の概要と認証を受ける際のポイントについて解説します。
“魔法のマーク”ではない
ちなみに、佐久間氏の協会はハラル認証団体ではない。特定の宗教団体にも属しておらず、ハラルの啓蒙をはじめ、ハラル商品やサービスの調査・PRなどを主体に活動する中立的な立場だ。
希望する企業には、目的や地域、予算などに応じて適切な認証団体を紹介するが、費用対効果から必要がないと判断すれば、取得をすすめないケースもあるという。
「ハラル認証は、決して魔法のマークではありません。取得しただけで、新たな販売先が見つかったり、利益に結びつくわけではないのです。認証が本当に必要かを、まず社内でよく話し合ってみてください。
そのうえで、通常のビジネス同様、どこの国で何をつくり誰に売りたいのか――しっかりとした事業計画を立てることが大切です」
ハラル認証取得までの流れ
日本では、先に掲げたように宗教団体やNPO法人などが認証を行っているが、このほかにも「ムスリムフレンドリー」「ローカルハラル」といった認証団体が独自に提唱する規格もある。
これは日本ならではの発展形態で、なぜそうした展開になったかを学ぶことで「日本国内の企業がハラルに取り組む際のヒントになる」と佐久間氏は言う。
「認証の仕組みは、商品そのものの品質を保証するJASやJISの規格よりも、ISOやHACCPといった製造工程や工場設備を保証する制度に近いと思っていただいてよいでしょう。
審査規準などは各認証機関によって異なりますが、認証取得までの一般的な流れは図表4のとおりです。最短でも半年から1年程度はかかりますので、余裕をもって準備をしてください」
例えば、ある製品について申請する場合、原材料だけではなく、生産・加工する工場や倉庫の状態、マネジメント体制なども含めて徹底した監査が行われる。
費用は申請内容によって変わるため、公表されてはいないがかなり幅があるようだ。審査にかかる実費や手数料、設備機器の整備や体制づくりにかかる費用も含めると、相場は数十万〜数百万円といわれ、認証後も年間運用費、ロゴ使用料などが必要になる。複数の機関に見積もりを出してもらい、比較検討したほうがよい。
「ビジネスをする国や地域などによって取るべき認証は違いますし、相談する認証機関も変わってきます。ブームに乗って認証ありきで始めると、ミスマッチも起きやすいですね。選ぶ際には得意分野やこれまでの実績など、情報収集を十分に行ってください。
とくに輸出では、相手国での認証が必要な場合もあるので注意が必要です。取引先を通じて事前に確認することをおすすめします」
企業のハラル対応に関しては、国や自治体も支援体制を強化し予算をつけ始めている。各認証機関や金融機関が主催する勉強会やセミナーも増えているので、インターネットなどで検索し、一度参加してみてもよいだろう。
「認証を取得する企業はイスラムの教えについて理解し、ハラル委員会を設置するなど、認証後もさまざまな運用管理のルールが課されます。そのハードルは決して低くはありませんが、苦労した分、企業価値は上がります。
将来を見据え、どんな選択肢を用意するか。結局、ムスリムとどう付き合っていくか、という企業姿勢を問われるのだと思います」
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