だからリニアも? 名古屋都市圏は新しい乗りものがお好き:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
JR東日本が東北新幹線で時速400キロメートル運転を目標とし、JR東海の磁気浮上式リニア中央新幹線が予定する時速500キロメートルに近づいた。それなら中央新幹線は従来の鉄輪式新幹線でも良いのでは? JR東海がリニアにこだわる理由は、意外と……。
「名鉄犬山モノレール」
名古屋鉄道の犬山遊園駅と日本モンキーパークの動物園駅を結んだモノレールがあったが、2008年に廃止された。理由は老朽化。設備更新するほどの利用者が見込めなかった。だからこの廃止は失敗ではなく、役割の終わりだ。1962年から46年間にわたって、多くの人々に愛された路線だった。
犬山モノレールは日本初の跨座式モノレール路線だった。コンクリート製のレールの上に車両が跨がる方式だ。実用化は奈良ドリームランドの園内施設が早かったけれど、鉄道営業路線としては犬山モノレールが日本初となった。跨座式の中でもアルヴェーグ式と呼ばれた。犬山モノレールの実績は東京モノレールや大阪モノレールの手本となった。
過去を断ち切る進取の気鋭
名古屋都市圏ではほかにも日本初がある。例えば、パノラマ展望電車だ。運転席を2階に上げて、1階席を展望室にする電車。日本初は1961年に誕生した名鉄パノラマカーだ。小田急の展望タイプロマンスカーはその2年後、1963年に3100形が登場している。自動車分野のトヨタも忘れてはいけない。プリウスは世界初の量産型ハイブリッド車だし、2014年に発表されたMIRAIは世界初の量産型燃料電池車だ。
名古屋人気質は分からないけれど、乗りものに関して名古屋都市圏は新しい方式に積極的だと思う。古い方式や慣習を断ち切る思い切りの良さがある。あるいは、せっかく費用を投じて開発したからには、一度は使ってみようという懐の広さだろうか。ただし、それがすべて成功しているかというと、そうでもない。ガイドウェイバスは当初、名鉄バスやJR東海バスも運行していたけれど、後に撤退している。リニモも赤字、ピーチライナーは廃止された。
ピーチライナーのように詰めの甘い部分があったとしても「これはダメ」と判断したときの引き際の良さは見事だ。名古屋に出掛けて、珍しい乗りものに出会うたびに、都市全体が乗りものの実験場のようだと思う。もっとも、リニア中央新幹線は数兆円に届く巨大プロジェクトだ。「ダメだからやめる」はできない。細部まできっちり詰めて、成功へ歩んでほしい。
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