トヨタの戦略は正解なのか――今改めて80年代バブル&パイクカーを振り返る:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/3 ページ)
トヨタを始め、今、世界の有力な自動車メーカー各社はモジュール化戦略と称し長期計画を進めている。しかし、合理化・最適化の先に、真の進化はあるのだろうか? 今回はそんな問題意識を端緒に、ある面白いクルマの話をしてみたい。
バブルの申し子「パイクカー」のデザイン
プラザ合意で円が世界の基軸通貨の仲間入りを果たし、日本全体が好景気で湧き上がるバブル経済真っ盛りの1980年代後半。1985年、87年、89年の東京モーターショーで、日産自動車が「Be-1」「パオ」「エスカルゴ」「フィガロ」という一連の変なクルマを出品した。世に言う「パイクカー」である。
Be-1はありていに言えば当時のローバー・ミニの偽物だった。同様にパオはルノー・キャトル、エスカルゴはシトロエン2CVと、それぞれに一目で分かるモチーフがあった。最後に出てきたフィガロだけは明確な元ネタを持たなかったが、漫画的カリカチュアによって欧州的レトロオープンカーを目指していたことは確かだ。
これらのクルマは、当時かなり話題になった。少なくとも、日産が予想していたよりは売れた。「最新こそが最良」ということに飽き始めたユーザーたちが、むしろ欧州の長寿車や旧車の古臭さを積極的に評価し、面白さを見出し始めたということだ。それはおそらく日本のモータリゼーションが成熟を迎えたということでもあったのだと思う。後付けで分析すれば、性能向上至上主義時代の終焉と、価値の多様化がこの頃始まったということになる。
その少し前、排気ガス規制で日本車はすっかりパワーを失っていた。もっとも厳しかった昭和53年規制(1978年)から立ち直り、性能的に復活したのはおそらく1980年の日産レパードと翌年のトヨタ・ソアラあたりだろう。これらを契機にハイパワー戦争が始まり、そこからたった5年後の1985年にパイクカーが登場したのだ。
パイクカーはこうした社会の曖昧模糊(もこ)とした雰囲気をストレートにすくい上げた商品企画だが、従来のクルマと明確に一線を引いていたのは、エンジニアリング的論理性を無視した点にあった。今の言葉で言えば、商品企画の暴走である。「これが流行っている。売れるから出せ」。技術と商品企画の正しい綱引きをスキップしている点で、少なくとも長期計画に取り入れるような知性に基づく商品ではない。
さらに当時の日本の経済的発展段階から言えば、今更コピー商品を売るというのは相当に恥ずべきことで、そういう意味では現在の中国製コピー商品が物笑いの種になっている以上に、恥ずかしい企画であると言えた。当時、日本のクルマ好きもジャーナリストも、その志の低さを指差して笑った。残念ながらその中には筆者も入っていた。
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