電気シェーバー市場で、日立だけが「ロータリー」にこだわり続ける理由:スピン経済の歩き方(1/5 ページ)
電気シェーバーを買おうと思ったら、「たくさんの種類があってどれを選んだらいいのか分からない」と感じた人もいるのでは。「回転式」「往復式」が多い中で、日立だけが「ロータリー式」を扱っている。その理由を調べていくと……。
スピン経済の歩き方:
日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。
「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。
そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」を紐解いていきたい。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで100件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
先日、4年近く使った電気シェーバーを買い替えようと思って家電量販店へ行ったらちょっとびっくりした。T字カミソリさながら3枚刃、4枚刃、5枚刃とさまざまな種類が溢れており、お風呂で使える、洗顔料を泡だてられるとか機能も充実。4万円超の高級モデルから5000円くらいのモノまでラインナップが充実し過ぎて、いったいどれを選んだらいいのやらという状態になったのだ。
そこでスペック表を片っ端からチェックしていてあることに気づいた。「往復式」と「回転式」という各社のシェーバーが並ぶなかで、「ロータリー式」と表記されているシェーバーが存在しているのだ。
店員さんに尋ねてみると、外刃のなかに入っているドラム状の内刃がシェーバーを動かすのと同じ方向へ回転する方式で、「掃除に使うコロコロをイメージしてください」という。日立が開発した方式らしい。
「往復式」というのは言葉の通り、内刃が左右に高速で往復する。「回転式」は内刃が扇風機の羽のようにクルクルと回転する。パナソニック、ブラウン、フィリップスという有名メーカーが販売しているシェーバーはこの2つの方式のどちらかだ。「ロータリー」は日立しか出していない。
そんな説明をされたところ、ふと「ロータリーエンジン」が頭に浮かんだ。響きが同じということもあるが、こちらも「レシプロエンジン」という「往復式」が主流のなか、マツダのみが量産していた独自技術だ。2012年に生産は中止したものの開発は続行しており、将来的にはEVに搭載するなんて話もあって、「ロータリー」にかけるマツダの強いこだわりがうかがえる。
ということは、日立もそうなのか。他社が4枚刃だとか5枚刃だとか往復式の内刃の数を競うような製品展開をしているなかで、1社のみ「ロータリー式」という独自路線を貫く姿はマツダにも重なる。そこにはやはり熱烈な「ロータリー愛」みたいなものがあるのではないか。
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