病院検索サイト「ZocDoc」のエンジニアは、どんなビジネスを考えているのか:日米のビジネス事情の違いを知る(6/6 ページ)
全米展開する病院検索レビューサイト「ZocDoc」で、日本人唯一のエンジニアとして活躍する奥西正人氏は、近い将来独立するという。どんなビジネスを始める予定なのか。ニューヨークでSix ApartのCEOを務める関信浩氏が聞いた。
米国人が上下の階層を越えても対等に話せる理由
関: 米国の会社はダイバーシティ(多様性)を重視するので、国や民族を越えて、いろいろな人が集まってくるじゃないですか。そうなると、日本人同士だったらいわゆる“阿吽の呼吸”で、話さなくていいこともきちんと説明しなきゃいけないとか出てきて、正直かったるいなということもあると思います。
一方でそれをすることによって、自分の思考がリフレッシュされたり、説明している過程の中で気付きがあったりと、ポジティブな面を感じることもあるかもしれません。私は米国で生活するようになり改めて、いろいろなカルチャーの人と話すのは重要だなと思うようになりました。
奥西: 関さんがおっしゃっているように、米国にいると、自分では当たり前と思っていることでも、実際に説明してみると、それが「本当にそうなのか」と考えざるを得ないことって、結構出てきますよね。皆同じことをやっているとそれがいつしか当たり前になってきて、脳みそも使わないというか、機械的にやっちゃいがちなところを、ニューヨークであればいろいろな人がいるので、プロセスとして考えて扱わないとダメなことがあります。
あと、ボトムアップの精神って、こっちのスタートアップだと結構あるんですよね。特に今の会社でいいなあと思うのは、「スピークアップ」と私たちは呼んでいるんですけれど、何か思ったことがあれば、5〜10分、好きな時に愚痴でもよいことでも何でも構わないので、ミドルマネージメントを越えて、直接上層部に話すことができます。これは米国ならではというか、米国のスタートアップならではの文化かなと思いますね。
関: 上下の階層はきちんと付いているけれど、個人として対等に話せるのは、働くモチベーションを維持する上でも大事でよね。
奥西: ええ、普段のコミュニケーションの中で、相手がVP(バイスプレジデント)だから現場の私が何か言えないということは全くありません。VPでも知らないことってたくさんありますから。特に自分が手がけている業務に関しては、おそらく私より詳しくないはずなんで。そういうところを先方も分かっているので、お互いディスカッションができる環境にあるんだと思います。
関: それは逆に言うと、それぞれが何かのプロフェッショナルじゃないといけないということでもありますよね。自分はもちろんVPより経験はないかもしれないけれど、この分野は極めているから自信をもって話せる! と。そうした内容で対等に話せるようになるには、ある程度「自分は何が得意なのか」を意識して高めておかないと、どんな人とでも1対1で話すことはできません。特に米国では、そういう1人1人の“個性”は尊重されますからね。
極端なことを言ってしまうと、そういうバリューがない人だと、会社にいてもらってもしょうがないところもありますしね。これから奥西さんが手がけられるビジネスの中で、米国人を日本に連れて行くようになると、日本人にもそういう意識が根付いて、人と話をするようになると思います。ちゃんと1人1人が持っているプロ意識を、プライドを持って話せるようになるというのは、魅力の1つですよね。こういう文化が根付くと、日本に外国人を連れて行くバリューがさらに広がるのかなと思います。
日本はよく、「黒船を使わないと変えられらない」と言われますが、よい意味でポジティブな価値観をもった米国人を、日本に連れて行くというのは、結果的に日本がよくなるきっかけになるんじゃないかなと思っています。
奥西: ありがとうございます。今までもそうだったんですけれど、自分の知識やバックグラウンドを生かして、次のステップにつなげてきたんで、ニューヨークでエンジニアリングをしてきたという知識や経験を、今考えている次のビジネスでも活用していけたらよいですね。海外生活が長いというのもある意味、バリューとして生かせると思いますので。
関: 奥西さんは、その新規ビジネスが軌道に乗ってきたら、拠点はどうされるんですか?
奥西: プロジェクトの内容次第ですが、どちらにしてもニューヨークとのつながりはあると思いますし、ずっと日本というのも今のところは考えていません。グリーンカード(米国永住権)を持っているので、いろいろと融通が効く部分もあります。国際的なビジネスの場合、グリーンカードを持っていることは、有利に働くはずです。
関: 新しいビジネス応援しています。今日はありがとうございました。
奥西: こちらこそありがとうございました。
(終わり)
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