「ゴーストライター」のホントのお仕事:出版社のトイレで考えた本の話(1/6 ページ)
「ゴーストライター」と聞いて、「なんだか怪しいなあ」と感じた人も多いのでは。しかし、ビジネス書や実用書などの世界では、非常にポピュラーな存在だ。なぜなら……。
出版社のトイレで考えた本の話:
出版界全体は、紙から電子へとフィールドを広げつつある。その一方で、従来の紙の書籍・雑誌の市場は縮小を余儀なくされている。アマゾンがほとんどの出版社にとって「単店での売上一番店」となる中、グーグルやアップルなど、従来は接点のなかった会社も次々とプレイヤーとして参入してくる。これから本はどうなるのか。
このコラムでは、某出版社で主にビジネス書・実用書などを手がける現役編集者が、忙しい日常の中、少し立ち止まって、そうした「出版や本を取り巻くあれこれ」を語っていく。
「無能な『著者』を操り人形にし、すべてを創造する影のフィクサー」
「出版という底なし沼に巣食う魔物」
さすがにそこまで思う人はいないかもしれない。でも、「ゴーストライター」という言葉が、何かこう、普通の人は関わっちゃいけないような、後ろめたい響きを持つのは確かである。
とはいえ、この「ゴーストライター」、ビジネス書や実用書などの世界では、実は非常にポピュラーな存在なのだ。
実用系の書籍の場合、多くは「著者」をインタビュー取材し、聞き書きの形で原稿を構成するのが、彼らの役割。起用の理由はさまざまだが、多くは「著者が忙しいので自分では書けない」「著者が文章を書くのが苦手」といった場合にこうした仕事をお願いすることになる。そのため、特にタレントやスポーツ選手、経営者、政治家などの本の多くは、このやり方でつくられている。
以前は本の隅々まで探しても、ライターの名前は一切出てこないというのが出版界の慣習だった。しかし最近は、本の中で「構成」「編集協力」などの形でライターの名前がクレジットされることも多い。
実は出版社の社内、少なくともビジネス・実用・ノンフィクション系の編集部で、「ゴーストライター」という言い方をする人間はまずいない。普通に「ライター」と呼ぶだけである。実際、仕事を引き受けるライターの方々にしてみても、「ゴーストライター」と呼ばれるのは嫌だろう。
「佐々木社長、こちらが今回、社長のゴーストライターを務めていただく田中さんです。田中さんはゴースト歴も豊富で、経験・実績ともに、ゴースト界では抜きん出た存在です」などと紹介されても、丁寧に扱われているんだか、けなされているんだか分からない。万一、編集部の若手が、無礼にもライターの方に「あー、もしもし、山本さん? ほら、山本さんお得意の、ゴースト? また一本お願いしたいんですけど」とか半疑問形で電話しようものなら、半殺し、少なくとも3分の1殺しぐらいには教育的指導を加え、自らは減俸3カ月程度を願い出るのが上司の務めである。
それはさておき、「ゴーストライター」という呼び名によって、ある種の「いかがわしさ」が増幅されているのは間違いない。この点でいえば、ビジネス系ノンフィクションの世界で著名なフリーライターの上阪徹氏が、『職業、ブックライター。 毎月1冊10万字書く私の方法』(講談社)などの著作で「ブックライター」という呼び方を提唱している。また、この6月に『ゴーストライター論』(平凡社)を出版したノンフィクション作家の神山典士(こうやま・のりお)氏は、「チームライティング」という言葉を提案している。個人的にはこうした名称が広がっていくとよいと思う。
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