「ゴーストライター」のホントのお仕事:出版社のトイレで考えた本の話(2/6 ページ)
「ゴーストライター」と聞いて、「なんだか怪しいなあ」と感じた人も多いのでは。しかし、ビジネス書や実用書などの世界では、非常にポピュラーな存在だ。なぜなら……。
フィクションとノンフィクションで意味合いは違う?
ここまで読んでいただいた方はだいたいお察しの通り、筆者自身は、ビジネス・実用・ノンフィクション系の本においては、「ゴーストライター」は必要だと考えている。詳しい理由は後述するが、この点については、私だけでなく、多くの編集者が同じように考えているはずだ。
彼らの仕事の流れをざっと説明しよう。
まずプレ取材として、構成案(取材項目)を固めるので、著者・ライターの顔合わせを兼ねた打ち合わせを行う。両者のフィーリングが合わないと、取材はうまくいかないため、このマッチングは編集者として非常に気を遣うポイントだ。
特に芸能人やスポーツ選手の場合、ライターが気に入らないと、何を聞いても「はい」「そうです」しか答えてもらえなくなったり、「ライターを代えてくれなきゃ、この話はナシにします」とかサラッと言われたりする。また、著者が女性の場合は「生理的に合わない」という理由で断られることもあり、男性ライターを起用する場合は、腕があっても清潔感がない人は選ばないほうが無難だ。
顔合わせの後、10時間前後の取材を経て、ライターは原稿作成に入る。取材終了後、1カ月ほどで原稿アップというのがよくあるパターンだが、念のため、本格執筆前に数ページ程度のサンプル原稿をつくって、著者に語り口などについて確認してもらうことが多い。ここで「やっぱ合わないわ、このライター」とか言われると、編集者は半泣きになるものの、すべてを執筆した後でないだけ、まだマシかもしれない。もちろん、ボツとなった場合も、仕事量に見合ったライター料は、出版社が自腹を切って払うことになる。
反対に、ライターのほうから「すみません、書けません」と韻(いん)を踏んだ泣きが入ることもある。サンプル原稿に対する著者の厳しい注文をいったん聞いたものの「言われたようには書けないよ」と放り出されるパターンが多い。分かる。分かるけど、そういう話は締め切り直前ではなく、もっと前に言ってくれ。
こんなときは、取材時の音声データ(または音声を書き起こしたテキスト)やメモを別のライターに渡して書いてもらわざるを得ない。こうしたトラブルからのリカバリーは優秀なライターにお願いしたいが、腕のあるライターほど忙しいので、実際の調整は大変である。
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