「共存文化」のダイハツがとるべき世界戦略とは:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)
スモールカーに特化するダイハツは国内外でスズキとしのぎを削る。そうした中でダイハツの強みと言えるのが「共存文化」である。そこに根ざした同社の世界戦略とは……。
e:S テクノロジー:新興国自動変速機戦争
トランスミッションはCVTの駆動油圧を低圧化し、伝達効率を向上、さらに電制スロットルの協調制御によって無駄を切り詰めている。
CVTとはContinuously Variable Transmissionの略。連続可変変速機という意味だ。ベルトに金属片のコマを通し(5円玉に紐を通したような状態)、油圧などで有効幅を変える二つのプーリーで挟んで動力を伝達する。コマは圧縮側で動力伝達すると金属棒と一緒なのでベルトは切れない。ただし、プーリーとコマの間は摩擦で力を伝えるのに、コマとベルトの間の潤滑のために油が必要だ。ショックが無いスマートさが売りだが、複雑でメインテナンスが難しい
現在の軽自動車、もしくはAセグメント用のトランスミッションとしては、CVTに加えて、マニュアルトランスミッション(MT)、MTのクラッチとシフトレバー操作を油圧や空気圧のアクチュエーターに代行させるロボット自動変速(AMT)、そして昔ながらのトルコン・ステップATの4つの選択肢がある。自動変速の選択肢は3つある。
ダイハツが国内用の多くをCVTにしている最大の理由はAMTのシフトショックの大きさだ。ただしAMTの問題は制御技術の向上によって徐々に改善されていく可能性が高い。機械の洗練性にお金を払える先進国マーケットだけを考えれば現状CVTも無しとは言えない。ただ、今後新興国で自動変速機戦争が起きそうな予兆がある。そこをどうするのかだ。
アルミのケースの中身はほぼMTと同じ。違うのはケースの上に乗っているアクチュエーター系のみ。変速の荒っぽさが嫌われる反面、安くて耐久性が高く、効率もいい。制御技術の進歩が待ち望まれる変速機だ。写真はスズキ・アルト用のAMT
先進国にはCVT、新興国にはAMTでいいじゃないかと思う人も多いだろうが、コスト制約の強いこのクラスで、両方にリソースを割くと開発面でも量産面でも不利になる。現状では、ダイハツは国内ではCVT、新興国はMTでいく国とトルコン・ステップATでいく国に分けて考えているはずだ。ここが問題だ。
いつまでも「新興国はMTで十分」というわけにはいかないし、トルコン・ステップATは洗練度で他を圧倒する代わりに、コスト、重量、効率で劣る。ダイハツはこのクラスとしては高級なアイシン製の電子制御式4段ATなどを使っているが、新興国には少しオーバークオリティである。ちょうどいい選択肢がない。ライバルのスズキはAMTに勝負を賭けている。現時点では制御が荒いが、その分コスト、重量、効率、信頼性の3点で理想的なのだ。
CVTは精密機械なので、新興国ではメインテナンスが相当に難しい。一方AMTは構造的にはただのMTだ。それにアクチュエーターを追加しただけの簡単な構造だ。生産設備もMTのリソースがほぼそのまま使えるのでコストメリットが大きい。新興国の自動変速戦争にこれ以上のソリューションはない。
とすれば、日本国内向けに頑張ってAMTの変速制御を解決してしまえば、先進国も新興国もなく、全部AMT一本で行ける。しかも新興国の安いコストで作った変速機を日本に輸入すれば、国内での価格メリットも付加できるわけだ。
関連記事
- 1年未満で3モデル! ダイハツがコペンを増やせる理由
ダイハツの軽オープンスポーツカー「コペン」が人気だ。2014年6月に新型を発表したばかりなのに、4月1日からは第3のモデルが予約開始。しかし本来、スポーツカーというのはそうたくさん売れるものではない。ダイハツが続々とラインアップを増やせる理由とは……? - スズキが“世界自動車戦争”の鍵を握る理由
他社に先駆けてインド市場に進出したスズキは、今や世界中の自動車メーカーから羨望の眼差しを浴びている。同社の成功の裏側にあったものとは……? - スズキが新工場を作る意味――インド自動車戦争が始まる
1月末、インド・グジャラート州で新工場の定礎式を行ったスズキ。実は同社は1980年以来、35年もの長きにわたりインド市場に取り組んできた。そのスズキがこのタイミングで新工場を設立する意味とは……? - 「常識が通じない」マツダの世界戦略
「笑顔になれるクルマを作ること」。これがマツダという会社が目指す姿だと従業員は口を揃えて言う。彼らは至って真剣だ。これは一体どういうことなのか……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.