訪日客が増えれば「儲かる」のに、なぜ日本はチカラを入れてこなかったのか:水曜インタビュー劇場(観光公演)(4/7 ページ)
数年前、政府は「観光立国」を掲げ、ようやく重い腰を上げた。外国人観光客が増えれば「儲かる」のに、なぜ日本はチカラを入れてこなかったのか。その理由について、『新・観光立国論』の著者に話を聞いた。
観光業は“伸びしろ”がある
土肥: 日本の市場は縮小していくので、まだまだ“伸びしろ”がある観光業にチカラを入れよ、ということですね。
アトキンソン: でも、多くの日本人は「モノづくりが自分たちの強み」という思考から抜け出せていません。講演会を開いたときに、なぜ日本のGDPは世界2位になったと思いますか? と質問すると、ほとんどの人がこのように答えます。「日本人は技術力があるから」「日本人は勤勉だから」と。2位になったのは、技術力が高いとか勤勉とかそれほど因果関係はないんですよ。
土肥: どういう意味でしょうか?
アトキンソン: GDPというのは「国内で1年間に生産されたモノやサービスの価値の総和」のこと。基本的には「最終消費支出+投資+政府支出+輸出−輸入」という計算で導き出されます。GDPは絶対額なので、人口と大きく関係しているんですよ。生産性が同じ国があったとして、A国が1000万人、B国が1億人であれば、GDPはB国のほうが多くなる。
一定の人口がいる先進国の1人あたりのGDPをみると、実はあまり変わりません。このことから何が言えると思いますか? あくまで先進国の中ですが、その中の順位というのは、人口によって大きく左右されるということです。
土肥: なるほど。
アトキンソン: なぜ日本のGDPは2位から3位に転落したと思いますか? と聞くと、このように答える人が多い。「日本人の技術力がやや落ちた」「昔に比べて、日本人が勤勉でなくなった」と。なぜ中国が日本のGDPを追い越したかというと、人口が多いからなんですよ。中国の人口は14億人弱なので、国としての基礎ができていれば、GDPは押し上がります。ただ、1人あたりのGDPをみるとケタが違う。このことからも、先進国の順位というのは人口の順位に比例していることが分かります。
日本やドイツの優位性を「技術力」や「国民性」で説明する人がいますが、数字でみるかぎり、人口以上に説得力のある要素はありません。だからといって、日本人やドイツ人は「技術力がない」「勤勉でない」と言うつもりはありません。技術力や勤勉さがなければ、先進国の仲間入りは難しかったはず。米国が1位、日本が3位、ドイツが4位である理由を説明するときに、「米国の技術は日本より上だから」と言われたらどう思いますか?
土肥: 多くの日本人は否定するでしょう。
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