Mobile:NEWS 2002年12月10日 11:49 AM 更新

着メロの進化形目指す〜「着うた」の裏側

auの新端末が対応する「着うた」。MP3を使った歌付きのメロディを、着メロのように配信しようというサービスだ。このサービスの裏側には、ほかが真似できない武器を使って、着メロ市場でもプレゼンスを確立しようというレコード会社各社の狙いがある

 着メロの代わりに、CD音源の曲が流れる──。KDDIのau端末向けにMP3を使った楽曲配信サービス「着うた」がスタートした(11月18日の記事参照)。既に530曲が用意され、ユーザーは自分の好きな歌をダウンロードして、着メロ代わりに使ったり、聞いて楽しむことができる。

 この「着うた」は、実は大手レコード各社待望のサービスでもある。エイベックス、ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)、ビクターなど国内メジャーレコード会社5社が出資した「レーベルモバイル」は、「レコード会社直営♪サウンド」の中で「着うた」(モバイルサウンド)を配信。着メロの次に来る音楽ビジネスに育て上げようとしている。

レコード会社に利益ない“着メロ”

 「レコード会社が人、モノ、金を使ってヒット曲を生み出して、着メロは成り立っている。しかし着メロが売れてもレコード会社の収入にはならない。不満のぶつけようがない」。

 そう話してくれたのは、レーベルモバイル社長の上田正勝氏だ。

 着メロビジネスは、基本的に1曲あたり5円の著作権料をJASRACに支払うことで成り立っている。しかし、この著作権料は作詞者・作曲者で配分され、アーティスト自身やレコード会社には支払われない(1月23日の記事参照)。着メロ市場は既に500億円とも800億円とも言われる。逆にこのところ落ち込みが止まらないCDセールスの市場規模は4000億円程度。レコード会社にとっては、だまって見ていられる状況ではなくなってきた。

 SMEデジタルネットワークグループの今野敏博部長も、「レコード会社は売れる前から地道なプロモーションを重ねた結果、大ヒット曲を生み出している。それで着メロがここまで大きくなったのに、恩恵が全部他人に取られてしまっている」と、現状の着メロ市場について苦言を呈す。

 この状況を見て、各レコード会社はレーベルモバイルを設立、遅ればせながら着メロ配信に乗り出したわけだが、今回の「着うた」では圧倒的に有利な点がある。

 「着メロは誰でも事業ができる。しかしモバイルサウンド(着うた)の場合、原盤権者(主にレコード会社)の許諾なしではサービスできない」(上田氏)からだ。また、一般ユーザーによるデータの作成もできないようになっている。「着うた」の登場で、まさに「レーベルモバイルを作った意義が出てきた」(上田氏)ことになる。

PHS向けの音楽配信は苦戦。そして「着うた」はなぜ成功する?

 技術面から「着うた」を見た場合、内容は従来PHSで行われていた「音楽配信」に近い。無線ネットワークを通じてMP3ファイルを端末にダウンロードし、端末で再生して楽しむというものだ。しかしNTTドコモの「M-stage」もDDIポケットの「SoundMarket」も成功しているとは言い難い。では、これらの携帯端末向け音楽配信と「着うた」との違いはどこにあるのか。

 1つはユーザーの認識にある。「“音楽配信”などというと、ちょっと難しいモノに聞こえる。着メロが進化したものと考えたほうが分かりやすい」(今野氏)。

 PHSを使った音楽配信が、CDの代わりに楽曲を購入するイメージだったのに対し、「着うた」はあくまでCD音源の“着メロ”。価格設定も1曲80円-100円とし、音楽配信の1曲200円と、1曲20円程度の着メロの中間に設定した。あくまで着メロのイメージで提供し、新たなマーケットの創造を図る。

 2つ目は、特殊な対応端末ではなく、普通の携帯電話を使うことだ。コンテンツビジネスでは、プラットフォームの広さが決定的な意味を持つ。「これまでの音楽配信対応PHSは、通話機能がなかったり機械そのものが専用のものだった。今回は皆が使っている携帯電話に機能が付加される」と上田氏。

 KDDIも「今後出す端末は着うた対応」をうたっており、新端末を買ってみたら「着うた」対応だった……ということになりそうだ。SMEの今野氏も「KDDIが対応端末の台数を確保してくれている。買い換え需要だけでも市場を捻出できる」と期待する。

「やがてはフルコーラスになっても不思議はない」〜「着うた」の今後

 「着うた」が着メロを意識したつくりであることは間違いないだろう。PHS向けの音楽配信では、高いビットレートで1曲まるごと提供されたが、長時間かけてダウンロードしなくてはならないのが不満点の1つだった。「着うた」ではこの点も大きく見直されている。

 現在「着うた」の演奏時間は15秒-30秒程度だが、これは「着信音として必要な長さと、通信料金、通信時間とのバランス」(今野氏)で決定された。今後の通信技術の進化次第では、「やがてはフルコーラスになっても不思議ではない」(上田氏)。

 24Kbpsというビットレートも、「いろいろな携帯のスピーカーで流してみた。これで落ち着いたのが24K」(今野氏)だと言う。端末にイヤホンを接続して聞くのを前提とした従来の音楽配信に対し、端末単体で聞く場合、端末のスピーカー次第でまだまだ音はよくなる。「着うたがきれいに聞こえる端末……」。そんなキャッチコピーの端末が出てきてもおかしくない。

 なお、現在1曲あたり100円の料金設定が多いが、普及に応じて料金の見直しもあり得る。目標とするダウンロード数は、「ユーザー1人あたり、月に2曲」(上田氏)。KDDIの端末は1年で約700万台が新機種に置き換わっており、1年後、700万台の「着うた」対応機が市場に出回ることが期待される。月に2曲のダウンロードがあれば、年間売り上げは170億円近くなり、今野氏の言う「着メロ市場の10分の1くらい」という目標は軽くクリアできる計算になる。

 もちろん、au端末だけでビジネスしていくつもりはなく、他キャリアでも条件が整い次第、「いつでもやりますよ」(上田氏)というスタンスだ。

「着うた」は、着メロの後継になれるか?

 着メロが携帯電話コンテンツの花形であることに疑いはない。しかし、ビジネスとしては次第に次第に厳しさを増してきているのも事実だ。端末ごとに曲を作り込むため、機種数の増加はコストを増大させる。他社との決定的な差別化が難しいため、低価格化競争にならざるを得ない。などなど……。100万人規模の会員を抱える大手はともかく、中小はコスト増と低価格化の中で苦しい運営を続けている。

 「着うた」のほうは、機種ごとの作り込みはしないのが基本スタンス。いったんデータを作ってしまえば、その後の使い回しが利く。さらに、着メロに比べて権利関係が複雑で参入が難しいため、ライバルとの料金面での競争圧力には悩まずに済む。上田氏は「条件さえ折り合えば、例えば大手着メロプロバイダーでも『着うた』を出せる」と言うが、原盤権を最大の資産と考えるレコード会社から利用許諾を取るのは金額的にもたやすいことではないだろう。

 KDDIは来年春から、さらに低コストで高速な通信方式「CDMA2000 1x EV-DO」の導入を予定している(7月19日の記事参照)。次々とブロードバンド化する携帯電話に向けて、着メロに対する「着うた」の利点は増すばかりだ。

 もちろん不安点もある。着メロが、“呼び出し音ではなく新しい音楽の形態”と言われて久しいが(1月23日の記事参照)、「着うた」の利用シーンがいまだにはっきりとは見えないのも事実。また、着メロよりもどうしても割高にならざるを得ないのも課題だ。

 現在、「着うた」はカシオ計算機製の「A5302CA」で利用できる(12月5日の記事参照)。“着うたが使える端末”として話題になっているが、ダウンロードしたユーザーがどう評価するかに注目が集まる。



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[斎藤健二, ITmedia]

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