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AVC/H.264への対応は進んでいるか?地デジ+モバイルが生み出す世界(5)

1セグ放送対応端末の開発にあたり、問題になりそうなのが「AVC/H.264」への対応。開発に手間どりそうな気もするが、問題はないのか。端末メーカー、プロセッサベンダーに聞いた。

 モバイル向けの地上デジタル放送「1セグメント放送」開始に向けて、対応端末の開発が進んでいる。しかし、1つ気になる点がある。1セグ放送向けの映像圧縮技術として採用された、「AVC/H.264」(3月24日の記事参照)への対応状況だ。

 AVC/H.264といえば、ドコモのテレビ電話などで使われている「MPEG-4」よりも圧縮率が高いのが特徴。ユーザーはより高画質で、なめらかな映像を楽しめるようになる(5月28日の記事参照)。もっとも、それに伴い画像の処理量は、2倍から4倍程度増加する。

 このデバイスへの負荷にどう対応するかが、端末開発側の重要課題だ。開発スケジュールなどに問題はないか、端末メーカーやチップベンダーなどに聞いた。

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メーカーの反応は?

 「1セグ放送のサービス開始と同時に、対応端末を市場へ投入したい」と意気込みをあらわにする端末メーカーが、NECと三洋電機だ。

 両社はすでに昨年の夏、相次いで1セグ対応受信機の試作機を発表している(関連記事その1その2)。もっとも、当時発表された試作機では2社とも、対応はMPEG-4のみだった。

 NECのモバイルターミナル事業部、商品企画部の柳井保マネージャーは、「確かに、現状で携帯電話に搭載されているCPUの処理能力だと、AVC/H.264を処理できるレベルではない」と認める(6月3日の記事参照)。

 「しかし、携帯電話は毎年どころか、半年ほどの短い期間で大きく進化を続けている。進化のロードマップで見た場合、2006年初め頃のサービススタートを想定すれば、その時期にリリースできる携帯電話のハードウェアならば、対応はそう難しいことではない」

 三洋電機は、「AVC/H.264の方が、処理が重たいために開発の負荷は大きいが、すでにほぼ開発完了している状況」とコメントした。

アプリケーションプロセッサは?

 ルネサス テクノロジは、携帯電話向けアプリケーションプロセッサ「SH-Mobileシリーズ」で知られるベンダー。NHK技研とKDDIが共同開発し、5月のNHK技研公開でお披露目した1セグ放送対応携帯(5月12日の記事参照)にも、同社の「SH-Mobile V」が採用されている。

 もっとも、上記の端末はMPEG-4に対応したものだった。1セグ放送向けの規格がAVC/H.264に決まった時点で、同社は開発人員をこれまでの4倍ほどに増やしたという。

 現在、1セグ放送対応のプロセッサは、SH-Mobile Vから2世代後のモデルである「SH-Mobile 3」をベースに進められている。同チップは、ドコモの900iシリーズにも搭載実績のあるもので、ARIBの規格であるQVGA・15fpsをサポートする。

 「既にLSIとしての設計は終わっており、AVC/H.264にも対応済み」(同社)。現在、アプリケーションを開発できるような、ボード型や端末型の開発環境が存在する。


アプリケーション開発を容易にする「SH-Mobile 3」ベースのボード型開発環境。液晶画面、カメラ、メモリーなど携帯電話の機能が盛り込まれている

こちらは端末型の開発環境。ボード型・端末型のいずれも、実際に映像ストリーミングを流すなどしてシミュレーションしながら、開発を進められる

 なお、同社は次世代となる「SH-Mobile 4」ベースの開発にも着手している。SH-Mobile 4ではコンセプトをがらりと変え(2002年6月25日の記事参照)、現在CPUのパフォーマンスで処理しているものをすべてハードウェア側の処理に移行させようという考えで設計されているという。これにより、「業界最高性能を世界最低の電力消費量で実現できる」(同社)。

 SH-Mobile 4の世代では、ARIBの規格とは別に、撮影した映像をテレビに出力して楽しむといった利用をも想定してVGA・30fpsに対応する。同社はこれを、クロック周波数66MHzで処理できるという。

「AVC/H.264とMPEG-4の並存」も

 FOMAのようなテレビ電話機能を備える端末で1セグ放送受信機能の搭載を考える場合、AVC/H.264とMPEG-4の両方に対応しなければならない――という状況も考えられる。

 アプローチとしては、両方のチップを搭載してしまうことも考えられるが、非常に面積が大きくなり、コストも大幅に増加する懸念がある。そこで、ルネサステクノロジでは、もっと効率の良い方法を提案する。

 「AVC/H.264とMPEG-4は異なるコーデックだが、上位層のアルゴリズムでは重複しているところがある。弊社ではその重複部分を共用エンジンにしてあるので、物理的なモジュールとしては1つで両方に対応できるようになる」(ルネサステクノロジ システムソリューション統括本部 アシスタントマネージャーの伊藤卓朗氏)。

 伊藤氏はまた、こうした作業が非常に技術力を問われるところであり、やりがいも感じると話した。

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