NECエレ、マルチコア搭載の携帯向けアプリCPU
ARM9コアのCPUを3つ搭載。組込向けCPUでは、初めてのマルチコアプロセッサとなる。対応するOSはLinux。H.264のソフトウェア処理も可能になっている。
NECエレクトロニクスは9月27日、3つのCPUコアを搭載した携帯電話向けアプリケーションプロセッサ「MP211」を開発したと発表した。
高速シングルコアではなく、200MHz程度のCPUを並列処理させる。それにより高速処理と低消費電力を実現し、さらに従来のアプリケーション資産の流用が容易になるというメリットをうたう。2005年1月からサンプル出荷を開始し、価格は1個5000円。2007年度までに月産100万個規模の量産を行う計画だ。
3CPU搭載でスケーラブルに
MP211の特徴は、最大200MHz動作のARM9コアを3個搭載し、並列動作させられるところにある。必要とされる性能に応じて利用するCPU数を変更することで、低消費電力と高パフォーマンスの両立を狙った。
「1GHzのCPUを載せるのではなく、300MHzを並べて処理を分散させる。普及機から高性能機まで対応できる、スケーラブルなソリューションだ」(同社第三システム事業本部長 兼 第四システム事業本部長の小坂秀敏氏)
同社は英ARMと提携して、マルチプロセッシング対応コア「MPCore」を開発しているが(2003年10月20日の記事参照)、MP211はその前段階といえるものだ。
3つのCPUのほか、音声/動画などのメディア処理用にNEC製のDSPを搭載。携帯電話向け地上デジタルテレビ放送(1セグ)で使われる符号化方式H.264を、ソフトウェアで処理できる。
同社モバイルシステム事業部長の山品正勝氏は、「H.264のソフト処理ができるのは弊社だけ。早送りなどの高機能化が容易にできる」と、ハードウェア処理に対する利点を説明した。
また地上デジタル放送の受信やテレビ電話などの消費電力が、1CPUの通常のアプリケーションプロセッサと比べて約3割低減できるという。H.264処理など、最も重い処理を行う場合で、消費電力は約100ミリワットとなっている。
既存ソフトを流用可能に~開発効率アップ
3CPUのもう一つのメリットは、既存のアプリケーション資産を容易に流用できることだ。「既存アプリケーションは1つのCPUで動作させ、新規アプリケーションは別のCPUに実装する」(山品氏)ことができ、新規アプリケーションに集中して不具合検証を行える。
また同社が開発したCPUの抽象化レイヤーソフトにより「複数のCPUを1つのCPUに見せる」(山品氏)ことが可能になっている。
これらのミドルウェアは、現状Linux OSのみに対応しているが、Symbian OSなどへの対応も可能だという。
こうした仕組みにより、ソフトウェア開発行程が半分から3分の1程度に減ると、同社では想定している。
将来はARM11コア~SMPに
CPUコアは、来年の次世代機ではARM11コアに変えていく予定だ。併せて、製造プロセスも90ナノメートルへ移行していく。
また今回は、「現状、ARM9コアで性能要求を満たせた」という理由からMPCoreを採用していないが、将来はMPCoreを使い、SMP(対称型マルチプロセッサ)に対応していく計画となっている。
現在、NECの3G携帯電話は、アプリケーションプロセッサに米TIのOMAPを使っているが(1月28日の記事参照)、将来MP211に変更していくかは未定。NEC モバイルターミナル事業部長の田村義晴氏は「並列CPU技術は、今後のアプリケーション拡張を行う上で重要な技術の1つと考える。特に、高性能、低消費電力を同時に実現できる技術として、またLinux OSを搭載したプラットフォームとして期待できる」とコメントしている。
同社は、日本や韓国を当初のターゲットとして販売し、続いて欧州市場を狙う計画だ。
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