第11回 マイクロソフト 梅田成二氏――シンプルなデータシンクロサービスも投入したい:石川温・神尾寿の「モバイル業界の向かう先」(2/2 ページ)
業界のキーパーソンと、ジャーナリストの石川温氏、神尾寿氏が携帯業界についてざっくばらんに語るモバイル鼎談。第11回では、マイクロソフト モバイル&エンベデッドデバイス本部部長の梅田成二氏に、Windows Mobileの今後の方向性について話を聞いた。
普通のケータイユーザーはケーブル接続したくない
神尾 ケータイをなくしても全部のデータが復活してくれたら、ユーザーさんは逃げませんよ。ケータイをなくして、中に入っていた電話帳や写真などのデータが失われるというのが、ユーザーさんにとって一番困った事態なので、誰がフルバックアップとリストアをやってくれるかが一番興味深いところですね。
石川 キャリアにはアドレス帳を預かってくれるサービスがありますけど、預けられるのはあくまでもキャリアの中だけなので、そこを端末だけじゃなくてPCやほかのデバイスとシンクロさせたりできるのはマイクロソフトさんだけかな、と思います。
神尾 ケータイで撮った写真も、ケーブルで接続せずに、撮ったら時間をかけてサーバに上げておいてくれて、家のPCを開いたらフォトストレージに入っているのが理想です。
石川 せっかく無線機能がついているんだから、PCとUSBで接続しなくてもいいじゃない、ということです(笑)
神尾 それは私も感じますね。家には無線LANがあるので、無線LANをつかんで、サーバ経由でシンクロしてくれるのが理想ですけどね。
梅田 基本要素はWindows Liveにそろっているので…。
石川 あとはモバイルユーザーをくすぐる仕掛けがほしいですね。
神尾 この業界は長く見ていますけど、普通のケータイユーザーさんは、あまりケーブルをつなぎたくないんだなあ、というのを感じます。何かと何かを接続して連携するという一手間がどうしてもできない人がいるので、これは無線を使って連携するしかないのかなと最近感じています。
梅田 iPodはPC接続するんだけど、ケータイは……ということですか。
神尾 バックグラウンドの文化的な蓄積もありますし、iPodの場合は充電できるという大きな要素がありますから。ケータイは、iPhoneは別として、パソコンから充電するという文化じゃないですからね。
梅田 そんなに操作性は変わらないんですけどね。端末のデザインなども含めて、Appleさんのほうが今のところは上手というか強いですね。
神尾 あと、Windows Mobile用に追加ソフトウェアをPCに入れるのも、普通のPCユーザーさんにはハードルが高いですね。実はPCにプリインストールされている以外のソフトを入れるのって、一般人にはとても面倒ですし、怖いと感じている人も多いですから。
梅田 まだ日本ではやっていませんけれど、端末に対応するアプリケーションだけをカタログ的に参照してダウンロードするという、Windows Mobile Marketplaceというコンポーネントはあるんですよ。ただ、まだキャリアさんにそのMarketplaceにアクセスする手段を用意していただく段階には至ってませんね。
石川 キャリアにしてみたら、これだけオンラインでアプリを提供したら、パケット通信料を稼げるんですけどね。
神尾 我々の世代はPCにソフトウェアを買ってきてインストールするというのは当たり前の世界だったじゃないですか。
でも、もしかしたらこれから先、パソコンそのものはどこかで買ってくるけど、そのあとはインターネットにつないだら、何もアプリケーションを買ってこないで、必要なものは自動的にダウンロードして導入するというスタイルになるんじゃないかと考えています。
そうなったときに、いちいち(Windows Mobileの)ソフトウェアのインストールを意識的にやらなきゃいけないというのは、この先は厳しいかなという気がします。Windows Mobile系のソフトは端末側のメモリに入れておいてほしいんですよね。USBケーブルを接続したら勝手に端末側でインストールをかけてくれるといったことをしてもらいたいです。
フォントも頑張ってほしい
神尾 Windows Mobileには、日本語の表現とフォントをもっと頑張ってほしいです。せめてiPhoneレベルまでいってほしいというのはありますね。文字の拡大縮小のスムーズさや、フォントの美しさなどに気を配ってほしいです。
スマートフォンはある意味、いろいろなところが自由になるじゃないですか。自由になると、そういうところ(フォント)が気になるんですよね。固定フォントでやっていた従来のケータイの世界と違うので。
梅田 Vistaでいうところのメイリオみたいなものですかね。
神尾 メイリオは入れてほしいですね。iPhoneのフォントは意外とお年寄りからの評価が高いんですよ。ネットニュースを「PCよりもiPhoneで読んだほうがいい」とおっしゃっていた50代の方もいたので。Windows Mobileでも、ぜひ美しいフォントに期待したい。
iPhoneは文字サイズを大きくしても、桁折りなどが自動調整されます。そうすると、自分に合わせた文字サイズで見られて、読みづらい字があったらさらに拡大できます。(Windows Mobileは)英語文化として日本とは違うところがありますので、日本語への理解が深まると、すごくいいと思うんですけどね。
あと、(Windows Mobile機器の)トップメニューで「今日の予定はありません」というのは冷たい言い方なので、もっと柔らかくしてほしいですね(笑)。そこは日本語表現として、もっと感情を大切にしてほしい。
梅田 まあ、ビジネスツールというところから来ているので、硬めな表現になってしまいましたけど、今後は……(笑)。
石川 そのあたりの表現もカスタマイズできるといいですよね。
神尾 操作方法は違ったりするところがあるので、ケータイ系ですとソフトバンクさんが採用した、他社のUIを継承できる「おなじみ操作」みたいなものだとか、チュートリアルやヘルプも充実してくれてもいいのかなという気はします。
石川 いずれにしても初心者に優しくというところですね。
神尾 御社としてもその方向をねらっていきたいわけですよね。
梅田 そうですね。
複数の操作体系の“交通整理”が必要
神尾 将来のWindows Mobileの理想は、うちの子供に渡して、使いこなせるものにはしてほしい、というところですね。今子供は5歳ですけど、彼はiPhoneだとけっこう使えるんですよ。自分でサテライトモードの「Googleマップ」を見て操作しているんです。iPhoneは触って操作できるので、子供でも何となく使えてしまうというところがあると思うんですけど、それは普通のケータイにもできていない領域ですし、Windows Mobileもできていないので、そこまでいくとすごくいいですね。
梅田 設定レベルの操作までは(通常のUIで)いいんですか?
神尾 そうですね。設定とかはできなくても、子供が「何となく触っていたら、結構使えてしまう」くらいにはしてほしい。そうなるとWindows Mobileのユーザー層が広がって、スマートフォンのエコシステムが拡大できると考えています。設定レベルではさすがに、何となく触って操作することはできないですけど、iPhoneは直感的に何となく動かせるという、それで興味を持たせるのが上手いなと思いますね。任天堂さんやSCE(ソニー・コンピュータエンタテインメント)さんが得意なところですけど、マニュアルを読まない人たちに最初の6分間だけ遊ばせて、飽きさせずに操作を覚えさせるという導入のし方は、ゲームにおいてはすごく重要ですね。
石川 まだWindows MobileはPCのWindowsを使っているのが大前提になっている感じがします。本当に若い層であれば、Windows Mobile端末が1台目になってくる可能性も今後十分出てくるので、その人たちがちゃんと使えるようなUIになってくれるといいと思いますね。
神尾 これはメーカーさんの領域かもしれませんが、複数の操作体系が混在しているじゃないですか。キー操作が主体なのかタッチペンが主体なのか、指タッチが主体なのかという“交通整理”が必要なのかなと。OSとしては全部に対応しなければいけないと思うんですけど、いろいろな操作方法ができてしまうと、分かりづらいというのはありますよね。
ちなみに御社は「Surface」というのをやってますよね。あのへんは、Windows Mobileとも連携してくるんですか?
梅田 どこまでというのは分からないですが、関連サービスが出てくる可能性はあります。
ITmedia 最後に、今までのお話を踏まえて、これからのWindows Mobileにかける意気込みをお願いします。
梅田 今はちょうど日本の携帯電話の次世代OSが何になるかという過渡期に差し掛かっています。その中でWindows Mobileは、今まではどちらかというとビジネスユーザーが使うOSという位置付けでしたが、今後はメインストリームに大きく展開していきたいと思っています。面白いデバイスも続々と出てくる予定なので、ぜひご期待ください。
(完)
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