MediaFLOで目指すのは「放送のWeb化」──クアルコムジャパン会長 山田純氏に聞く:神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)
島根県松江市で始まった「島根ユビキタスプロジェクト」では、MediaFLOを活用したローカル放送やデジタルサイネージの実証実験も行われる。全国向けモバイルマルチメディア放送にとどまらない、さまざまな可能性を模索するMediaFLOの狙いを山田純会長に聞いた。
MediaFLO + デジタルサイネージに可能性あり
ITmedia 島根ユビキタスプロジェクトでは、MediaFLOをデジタルサイネージ端末のコンテンツ配信インフラとして使う実験も予定されています。デジタルサイネージは最近の注目分野ですが、これとMediaFLOを組み合わせる可能性について、どのように見ていますか。
山田 クリップキャストとデジタルサイネージ端末の関係は、大きな可能性があります。MediaFLOのバックエンドシステムは、大量の(デジタルサイネージ端末用)コンテンツを、“どの端末に、いつ配るのか”という創意工夫を可能にします。これを応用すると、多くのコンテンツを配信しながら、それを実際に表示するデジタルサイネージ端末は(広告コンテンツの最大効果が得られるように)最適化されているという仕組みが構築できます。
ITmedia それは携帯電話向けのクリップキャストとは異なる使い方ですね。
山田 そうです。デジタルサイネージ端末ごとに、自動的にクリップされたコンテンツが取捨選択される。こういった実証実験は海外でも行われていないので、意味があると思っています。
ITmedia MediaFLOのようなモバイルマルチメディア放送を使うと、コンテンツ配信コストの低廉化が見込めますし、運用性も向上します。さまざまな点で、デジタルサイネージとは相性がよさそうです。
山田 そうですね。デジタルサイネージとクリップキャストとの組み合わせですと、映像コンテンツや静止画像といった考え方になりますが、一方でIPデータキャストを使って(Flash)アニメでコンテンツを流すといった可能性もあると考えています。
放送に参加する人と企業を増やしたい
ITmedia 今回の島根ユビキタスプロジェクトでの取り組みは、北米で商用化済みのストリーミング放送だけでなく、クリップキャストやIPデータキャストなどMediaFLOのポテンシャルを大きく引き出すものになりそうですね。
山田 そうですね。日本、そして北米でも、本当の意味で“モバイルマルチメディア放送が何をもたらすのか”について、模索されている段階です。ですから、(クリップキャストやIPデータキャストも含めた)次世代のモバイル向け放送の在り方やビジネスモデル構築について、早い段階から挑戦するチャンスが得られたと考えています。
我々の希望としては、(既存の放送業界にとどまらず)モバイルマルチメディア放送への参加者を広げたいのです。全国規模の放送では、映像コンテンツホルダーや放送キー局の持つコンテンツやノウハウが必要になりますが、MediaFLOで”ローカル放送”の部分にも新たな可能性が見いだせれば、各地に小さな放送局やコンテンツ制作会社が生まれるかもしれません。我々としてはMediaFLOとインターネットとの親和性とさらに高くして、ネットのコンテンツやサービスを創る感覚で、放送サービスに参加する人や企業の受け皿にもなりたいのです。
ITmedia それはインターネット的な分散型の情報対流の考え方ですね。放送キー局がポータルサイトならば、その周辺に“多くの参加者が集える仕組み”が用意されることで、サービスやコンテンツ、ビジネスの多様性が生まれそうです。
山田 まさに「放送のWeb化」です。MediaFLOは、それを実現するために必要な技術的な要素が埋め込まれているので、ぜひ、それを実現したいのです。
ITmedia 最後に今後の目標をお聞かせください。
山田 まず、地域性のあるものも含めて、さまざまな映像コンテンツが発掘されて、流通する新たなディストリビューションの構築に貢献したいと思います。また、それらをビジネス化する目処も立てたいと考えています。
また一方で、MediaFLOの技術そのものも進歩させていきます。例えば、映像の圧縮技術もさらに進化させ、(モバイル向けでも)画質も向上させていった方がいい。放送技術というと「いちど決めると、なかなか変えられない」のが常識でしたが、PCのメディアプレーヤーソフトのように、ソフトウェアアップデートで新技術に積極的に対応して進化していくことで、電波利用効率が上がり、提供するコンテンツの(画質などの)クオリティもあげられます。すでにサンディエゴ(Qualcomm本社)でMediaFLOの改良には着手していますので、ユーザーとコンテンツホルダーのニーズに合った形で、今後もMediaFLO技術は進化していきます。
関連キーワード
MediaFLO | 携帯向け放送 | メディアフロージャパン企画 | デジタルサイネージ | QUALCOMM(クアルコム) | KDDI | モバイルメディア企画 | ストリーミング | Verizon | Blu-ray | ISDB-Tmm | 日本初
関連記事
神尾寿のMobile+Views:日本初、屋外向けMediaFLO+FeliCaの実証実験──島根ユビキタスプロジェクト開始
島根大学周辺のユビキタス特区で9月11日、「島根ユビキタスプロジェクト」がスタートした。産学公民で連携し、MediaFLOやFeliCaを使ったさまざまなサービス実験やビジネスモデル実験が行われる。メディアフロージャパン企画、ユビキタス特区の実験局免許を取得──VHF帯で初の実証実験
KDDIとクアルコムジャパンが共同設立したメディアフロージャパン企画が、ユビキタス特区でVHF帯によるMediaFLOサービスの実証実験を行うための実験局免許を取得した。9月下旬から試験電波の送信を開始し、11月下旬の開局を目指す。- AT&T、MediaFLOのモバイルTVサービスを5月に開始──Verizonに続き
AT&Tが、QUALCOMMのモバイルTV技術「MediaFLO」を利用した新サービスを5月に米国で提供開始する。 よりよいサービスはオープンなビジネスモデルと競争から生まれる──モバイルメディア企画の石原氏
2011年のアナログ停波後の跡地利用を巡っては、周波数帯の獲得を目指す各社が技術とサービスをアピールし、通信と放送の融合を実現させるための法整備も着々と準備が進んでいる。MediaFLOでの参入を目指すモバイルメディア企画の石原弘取締役は、オープンなビジネスモデルと事業者間の競争がよりよい次世代サービスを生み出すという。次世代マルチメディア放送で重要なのは“ケータイユーザー”の視点──メディアフロージャパン企画の増田氏
3月19日、携帯端末向けマルチメディア放送技術の1候補と名乗りを上げるMediaFLOの年次イベントが開催された。KDDIを主要株主とするメディアフロージャパン企画の増田和彦社長は講演で、ケータイ向けマルチメディア放送サービスのあり方に対する考えや、MediaFLOのメリット、ユビキタス特区での実験のロードマップについて説明した。PCやスマートフォンでもMediaFLO──対応デバイス、続々
3月19日に開催された「MediaFLO Conference 2008」では、関連各社がMediaFLOの最新デバイスを披露。QWERTYキーを搭載したMediaFLO端末や、PC、スマートフォンに接続して利用する端末などが登場した。MediaFLOとワンセグを1台の端末で──オープンな姿勢で臨むクアルコムのMediaFLO戦略
米QUALCOMMは5月28日、BREW 2008 Conference開催に先立ち、日本の報道関係者に1台でMediaFLOとワンセグの両方が視聴可能な端末を公開した。マルチモードチップ「MBP1600」を搭載した評価機で実現したもの。「MediaFLOってなに?」に答えるKスタの実証実験──メディアフロージャパン企画
メディアフロージャパン企画は11月27日から、KDDIデザイニングスタジオで携帯向けマルチメディア放送技術「MediaFLO」の実証実験を開始した。来場者が自由にMediaFLO端末を操作でき、具体的なサービスがイメージできるようにしている。「2011年まで待つつもりはない」──MediaFLO導入を急ぐソフトバンクモバイルのビジョン
「2009年中にはMediaFLOのサービスを開始したい」──。こう話すのはソフトバンク傘下のモバイルメディア企画を率いる矢吹雅彦社長。どんなサービスをどんなビジネスモデルで展開しようとしているのか。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.