端末総販売数、2割減──新販売方式の影響は、そして国内端末メーカーの未来は:2008年の通信業界を振り返る(3)(3/3 ページ)
スマートフォンを中心に、海外メーカー端末の躍進が目立った2008年。その裏で、新販売方式などの影響により、端末の総販売数は2割程度落ち込むという、国内端末メーカーには苦しい1年だった。第3回は国内メーカーと海外メーカーの動向や、総務省の施策の影響などを振り返る。
2009年に端末メーカーに期待することは?
ITmedia いろいろな話が出ましたが、ここで2009年に端末メーカーに期待することを伺いたいと思います。
石川 2008年冬モデルで、各社がタッチパネル搭載ケータイを導入しつつある中で、まだ日本メーカーとしての使いやすいタッチパネルケータイというのが出ていないような気がしています。今、ちょうどそのUIに対してリセットがかかっている状態のような気がするんです。
ダイヤルキー(テンキー)と組み合わせたときに使いやすいタッチパネルとは何なのか、メールが打ちやすいタッチパネルケータイとは何なのかというのは、非常にいいタイミングでリセットがかかったと思うので、ここで頑張るメーカーが、恐らくこれから数年「使いやすいメーカー」として評価されるのかな、と思っています。
シャープが半歩……いや0.3歩くらいリードはしていますが、まだまだほかのメーカーにも逆転するチャンスはあると思いますし、ここでもしかすると大きな逆転劇が起きるのかもしれない、とも期待しています。
神尾 ユーザーインタフェースは、これからさらに発展していく領域です。日本メーカーはまだ古い思想から離れ切れていない部分もあるので、もっと未来志向で取り組んでほしいですね。既存ユーザーの声ばかり聞いていても、新しいUIは創れません。シャープや富士通の地道な取り組みを見ていると、日本のメーカーや開発者だって、Appleに勝てる能力はあると思うんですよ。ですから、そういう可能性の芽を、過去に囚われて摘まないでほしいのです。
例えば、タッチパネル搭載機種を創るのならば、UIは全部作りなおせと言いたい。iPhoneと同じくらい。そこまでやらなかったらタッチパネルとして使いやすいUIには絶対にならないのです。テンキー時代のUIはいっさい残さない、何も過去から持ってこない、というくらいでないと。
長期的なスタンスとして、完成されたUIを一定期間ごとにすべて作りなおすくらいの覚悟がほしいですね。UIとソフトウェアは、将来のケータイにおいて競争力の源泉となる部分です。ですから、ここは「コストをかけるべき領域」なんです。
石川 神尾さんのご指摘は非常に的を射ていると思いますが、実際にそれをやるのは厳しいだろうな、という気はしますね。今までのケータイというのは積み重ねて積み重ねて作ってきたものだと思うので、それを壊すというのは多分日本のメーカーでは厳しいのではないかと思います。
神尾 確かに日本的な会社組織では難しいでしょうが、それは”やらなければならないこと”だと思いますよ。UIの部分で新たな発想や開発ができなくなれば、日本メーカーは本当の意味で「ガラパゴスの変種」になってしまいますから。すべてのUIをゼロから見直し、よりよい形を模索する枠組みは絶対に必要です。今後数年でモバイルを軸に、コンピューティングとインターネットの世界が大きく変わります。そこで日本の情報通信産業が取り残されないようにするためにも、日本の携帯電話メーカーはUIに対して自由かつ大胆な姿勢をもってほしい。
石川 恐らく今の商品の見せ方とUIを全く新しくするというのは、ユーザーの混乱を招く気がするので、もしそういうことを考えるのであれば、ドコモであれば全然違うもう1つのシリーズであるとか、5つ目のシリーズを立てることによって、今までとは全然違うものですよ、とアピールしてほしいですけどね。初めて触った時に多少混乱するかもしれないし、「今までNEC端末を使っていた人でも最初は使いにくいかもしれませんよ、でも使っていくうちに便利で使いやすいものになって行きますよ」というような見せ方をする必要があるのかなぁと。
神尾 本来はそれが、ドコモの「PRIMEシリーズ」などの担うべき役割なりかもしれませんね。
石川 そうそう。
神尾 UIを大きく変えると混乱は確実にあるんですが、ユーザーにとって本当に使いやすい大規模な刷新であれば、批判はあってもいずれそれは認められます。私は3年後に評価される理にかなったUIの革新ならば、「当初は大クレームになってもいい」という発想はアリだと思うんですよね。それは少なくとも、長い目で見た時にその選択というものが、全体的な市場活性化につながるわけですから。
これはお客様満足度を重視している弊害だと思うのですけれど、キャリアやメーカーが目先のクレームに過度に怯えてしまう傾向が見られます。これはバランスの問題なのですが、未来に対して必要な変化ならば、クレームを恐れない姿勢もまた必要なんです。お客様の声は大切ですが、それを理由付けに必要な進化や変化を拒むというのは、厳しい言い方をすればメーカーやキャリアの怠慢ですよ。それが必要なことならば、ユーザーを裏切るべきです。
石川 もともと日本人というのはかなり保守的で、とりあえず前のメーカーの端末を買えば取扱説明書を見なくてもそこそこ使えて……という発想がある中で商品選びをしてきたという過去があります。それだけに、なかなかメーカーとしても新しいことができないし、新しいことをやり過ぎて失敗したことも多々あります。その経験が、恐らく今のあまり面白くない端末になっているので、メーカーも頑張らなければいけないし、見せ方も変えなければいけないし、という面からすると、来年というのは1つ大きなポイントになるのかなぁと。だからこそタッチパネルで使い易いと言われれば認められるという感じなのではないかなぁと。
神尾氏 2009年がタッチパネル元年になるなら、とにかく今までのUIをすべて載せないでほしいですね。今までのメニュー体系を一切捨てたところからタッチパネルをやってほしいし、それができないならタッチパネルをやらない方がいい。極論かもしれないけれど、そうしないと新しいものは出てこないと思います。
少し最近の事例を振り返ると、アクロディアのVIVID UIが各社のケータイに採用され、UIの着せ替えができるようになって、新しいマーケットもできたわけです。しかもこれが大きなビジネスとして伸びています。今まであたりまえだと思っていたところをガラッと変えてしまうと、新しいユーザビリティだけでなく、ビジネスまで開けたりするんです。メーカーには、もっと前向きに変化を捉えて、市場環境やトレンドの変化をうまくバネにしてほしいですね。
(続く)
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