レコード会社の代わりに楽曲を宣伝します――ユードー南雲氏に聞く「SPOT MUSIC」の狙い(2/2 ページ)
ユードーが提供している「SPOT MUSIC」は、ミュージシャンが宣伝した楽曲をリスナーが聴いて“応援”をすることで、ポイントがもらえるという新しいタイプの音楽サービス。新しい音楽ビジネスの創出を狙う南雲氏に、開発の背景を聞いた。
過激なエフェクターを搭載した理由
アプリの機能や操作性についても見ていこう。SPOT MUSICアプリの楽曲はストリーミング再生され、ダウンロードはできない。そのイメージはラジオに近い。南雲氏は「iPod(などミュージックプレーヤー)のライブラリには限られた曲しかないので、ラジオのように、知らない曲を知ってほしい。DJのコメントもなくて、純粋に聴いてもらいたい」と考える。
ミュージックプレーヤーとしてはどんな機能があるのか。お気に入り登録、全国と現在地の再生ランキング・再生履歴の閲覧は可能で、ポイントの高い順(いわゆる“もうかる順”)や新着順の表示にも対応している。プレイリストを作ったり、アーティストごとに曲を管理したりはできないが、こうした機能の実装も検討しているそうだ。
数々の音楽アプリを手がけ、元ミュージシャンでもある南雲氏らしく、イコライザー、コンプレッサー、ローファイ、リバーブ、エンハンサーといったエフェクターをアプリに実装し、ユーザーが自由に操作できるようにした。「上品でおとなしめというよりは、過激にかかるようセッティングしているので、テクノからダブスティック、ヒップホップなどのクラブ系のトラック、ロックまで対応できます。ぜひ、スタジオのマスタリング、リミキサーの質感を味わってほしいです」(南雲氏)。エフェクター自体はマニアックなものだが、「楽器や音楽ツールを使っていない人も、指で適当に操作できてしまう」(南雲氏)手軽さがある。
ここまで本格的なエフェクターを用意したのは、スマートフォンのスピーカーの音質を少しでも良くしたいと思っていたからだという。「iPhoneやAndroidにはイコライザーはありますが、コンプレッサーやローファイがないので、とても気になっていました。例えば、J-WAVEで聞く音楽の質が良いと思うのは、コンプレッサーを使って質感を作っているからなんです」と南雲氏は説明する。
南雲氏は、SPOT MUSICが成功したら、Audio UnitやVST準拠の規格、あるいは独自の規格による、エフェクターのプラグインを開発したいと話す。「音楽の普通のリスナーに向けて、ここで僕たちは技術を発揮していきたい。ミュージシャンも満足できるような仕上がりです」と自信を見せる。
アイドル好きにSPOT MUSICは合わない?
リスナーにとっては、どんな曲がそろっているのかが気になる。ZIP-FMではアイドルの楽曲をオンエアしないというルールがあるそうで、SPOT MUSICに採用する楽曲も、そのルールにのっとっている。したがってSPOT MUSICでもツウ好みの曲が中心のようだ。南雲氏は「アイドルファンの人にはSPOT MUSICは使ってほしくないですね(笑)」と冗談ぽく話すが、流行りの曲を聴くことの多い人には、新しい音楽と出会う良いきっかけになるかもしれない。
「元アーティストとしては、格好いいサウンドで埋め尽くしたい」と南雲氏。同氏が考える「格好いいサウンド」とは何か。「大衆を意識しないでほしいですね。僕、最近の音楽はくだらないと思っているんですよ。80年代のアーティストは、例えばレコード大賞で最優秀アルバム賞を受賞しても辞退したり、歌番組に出なかったり……大衆に迎合しない姿勢を貫いていました。そんな80年代や90年代に活躍したアーティストたちが、テレビのバラエティ番組で『太鼓の達人』を必死に演奏しているのを見ると、すごく腹が立ってくるんですが……。60歳を過ぎても自分の道を貫いている人は格好いいですけど、普段からロックな生き方をしていなくても良いと思います。小椋佳さんのように、普段は銀行員だけど歌っているとか」
ZIPさんと共同でレーベルを立ち上げたい
将来的には、SPOT MUSICでお気に入りのアーティストを探して、ZIPさんと共同でレーベルを立ち上げることを目標にしており、SPOT MUSICを起点にブレイクするアーティストが表れる日も近いかもしれない。またZIP-FMに留まらず、ほかのFMラジオ局とのコラボレーションも視野に入れている。アプリについては「ユーザーの成長とともにバージョンアップします」とのことなので、使い勝手の向上や機能追加にも期待したい。また、Android版アプリの登場も予定している。
今年で40歳になる南雲氏は、社長でありつつも、まだまだ現場で物作りの醍醐味を味わいたい気持ちが強いと話す。ただ、扱うジャンルはゲーム以外にシフトしつつある。
「ゲームも0円化してフリーミアムになっている中で、そこで戦うのは早く退散しないといけないと思っています。世の中の人に役立つアプリを作りたいと考えていますが、みんなの役に立つことよりも、みんなが使ってもらうことで自分が満足する、という位置に僕はまだいるんです」
そう笑いながら話す南雲氏の目は輝いていた。子どものころ勉強はできたという南雲氏だが、一番にはなれなかった。だから人と違うことをすることで、周りの気を引いてきたという。「人がやらないものを、誰よりも早くやりたい」――。そんな純粋な想いから生まれたSPOT MUSICが、どこまで音楽のビジネスモデルを変えるのか、注目したい。
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