戦いの火ぶたは切られた――3キャリアの「iPhone 6s/6s Plus」を巡る攻防:石野純也のMobile Eye(9月14日~25日)(2/2 ページ)
いよいよ発売される「iPhone 6s」と「iPhone 6s Plus」。今回の連載では,ドコモ、KDDI、ソフトバンクがiPhone 6s/6s Plus発売に先だって打った戦略を読み解いていく。
iPhoneのネットワーク性能をフルに生かすドコモ
キャリア同士の戦いでは、ネットワークにもスポットライトが当たる。ここで先行したのは、ドコモだった。同社はiPhone 6s、6s Plusの登場に合わせ、2GHz帯(Band 1)と1.7GHz帯(Band 3、1.8GHz帯と呼ぶ方が一般的)の2つの周波数を掛け合わせたキャリアアグリゲーションを開始。同社が「PREMIUM 4G」と呼ぶLTE-Advancedの速度は、国内最高の下り最大262.5Mbpsとなる。
すでにLTE-AdvancedはAndroidでも導入されているが、最大の通信速度は下り225Mbps。これは、2GHz帯と1.5GHz帯(Band 21)および1.7GHz帯と800MHz帯(Band 19)の組み合わせによるもの。ほかにも、Androidでは2GHz帯と800MHz帯で、下り最大187.5Mbpsのキャリアアグリゲーションを実施している。ドコモはLTE-Advancedの導入に高度化C-RANと呼ばれる仕組みを導入しており、これによって「実行速度の速い周波数からキャリアアグリゲーションを的確に選択し、基地局と端末が申し合わせて通信する」(取締役常務執行役員 大松澤清博氏)ことが可能になった。
AndroidやWi-Fiルーターで使っていた3つの組み合わせが、1つ増えた格好だ。なお、2GHz帯と1.7GHz帯のキャリアアグリゲーションは、今のところiPhone 6s、6s Plus専用となっている
このうち、iPhone 6s、6s Plusは、世界的に見ると珍しい1.5GHz帯には非対応。2GHz帯と1.5GHz帯のキャリアアグリゲーションが利用できない。もし2GHz帯と1.7GHz帯のキャリアアグリゲーションを導入していなければ、Androidより利用できる帯域幅の合計が少なくなってしまっていた。特に、2GHz帯と1.5GHz帯の組み合わせは、トラフィックが最も集中しやすい大都市圏を中心に、集中して導入されている。
iPhoneの取り扱い開始が遅かったドコモは他社よりAndroid比率が高いとはいえ、混雑しやすい場所でキャリアアグリゲーションの組み合わせが減ってしまうのは、ネットワークにとってもマイナスだ。1.5GHz帯に対応していなかったiPhone 6s、6s Plusに合わせて、2GHz帯と1.7GHz帯を導入したのは、そのためだ。2GHz帯と1.7GHz帯の組み合わせであれば、速度も262.5Mbpsとなり、あくまで理論値だが、他社をリードできる。
実際、auは下り最大225Mbpsで、Galaxy S6 edge発売時点と、最高速度は変わっていない。ドコモと同様、2GHz帯と1.7GHz帯を持つソフトバンクも、この組み合わせでのキャリアアグリゲーションは行っておらず、2GHz帯と900MHz帯(Band 8)のキャリアアグリゲーションでの最高速度も187.5Mbpsにとどまっている。
2GHz帯は、ドコモが基盤として整備してきた周波数帯。1.7GHz帯も東名阪など一部地域に限定されているが、「特に力を入れて、都市部を中心に大幅な増強をしてきた」(大松澤氏)周波数帯だ。「(iPhone発売時点で)1.7GHz帯のすべてがキャリアアグリゲーションに対応しているわけではない」(同)というものの、すでに広がっているエリアを対応させていくだけなので、スピーディな展開が可能。2015年度末までに、キャリアアグリゲーション対応基地局は1万8000局に拡大していくという。
もちろん、ネットワークは理論値の最高速度が速ければいいというわけではないが、LTE-Advancedの導入は実行速度の向上にも貢献する。ドコモによると、LTE-Advanced導入前後を比較したとき、最繁時でも都市部で20%、全国平均で10%の実効速度の向上が確認できたという。ドコモは下り最大262.5MbpsのLTE-Advancedに関する説明会を開き、そこに合わせて、LTE-Advanced対応のエリアマップも公開した。こうしたところからも、ドコモの自信のほどがうかがえる。
auはWiMAX 2+、ソフトバンクはAXGPも活用しており、エリアも広がっているため実効速度の優劣を一概に比較することは難しいが、下り最大300MbpsのLTE カテゴリー6に対応したiPhone 6s、6 Plusの性能を最も引き出せるのが、ドコモのネットワークといえるだろう。
iPhone 6s、6s Plusを巡る戦いは、料金で攻めるKDDIに対し、ネットワークで勝負するドコモという構図が浮かび上がってくる。2社に対し、有効な対抗策を講じられていないソフトバンクは、どちらかといえば防戦を強いられている印象だ。もちろん、同社は真っ先にiPhoneを取り扱ったキャリアであり、既存ユーザーも多いため機種変更需要も見込める。ただ、かつてのソフトバンクにあった攻めの印象が薄れている印象は否めない。
こうしたキャリアのアピールに対し、ユーザーはどのような判断を下すのか。新しいiPhoneを巡る戦いの火ぶたは、間もなく切られようとしている。
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