コラム

「IP電話」や「中継電話」の通話料金はどうして安いの?MVNOの深イイ話(1/2 ページ)

格安SIMで音声定額を実現するハードルは高いのですが、通話料金を安く済ませられるサービスは数多く存在しています。IP電話やプレフィックス番号を付けるサービスがありますが、これらはなぜ安くできるのでしょうか?

MVNOの電話料金は安くならないの?

 MVNOとMNO(大手キャリア)のサービスの比較としてよく取り上げられるのが、「MVNOには音声通話料金の定額制がない」ということです。MVNOの多くは「通話30秒あたり20円(国内通話)」という料金体系です。中には「基本料金で毎月○○分まで通話無料」といったプランを持っているところもありますが、指定された時間を超えると通話した時間に応じた費用がかかります。キャリアが導入している「一定額を支払えば通話し放題」というサービスとは傾向が異なります。

 MVNOのサービスがこのような課金体系になっている理由の1つに、日本のMVNOは音声通話に関する設備を持っていない、ということが挙げられます。


MVNOの設備

 音声通話についてはMVNOサービスの利用者であっても、キャリアの設備を利用しています。キャリアは通話した時間に応じた料金をMVNOに請求し、MVNOが利用者にその料金を請求する仕組みです。

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 もし音声通話の設備がMVNOにあれば、設備の実際の稼働状況とそのコストを見ながら、より独自性の高い料金プランを作ることができるかもしれません。しかし、現在のところMVNOの音声通話設備の自網との接続を許可しているキャリアは存在しませんし、キャリア設備を利用した状態では独自性の高い料金プランを作ることは困難です。実際のところ、MVNOの音声定額制の実現は決して不可能ではないものの、ハードルが非常に高いといえます。

 しかし、このような状況の中でも、いくつかのMVNOはできるだけ通話料金を安くすべく、いろいろなサービスを展開しています。今回はその中で2つの方法を紹介します。

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IP電話を使う方法

 1つ目が、IP電話を使う方法です。スマートフォンでIP電話アプリを使うと、その通話はキャリアの音声通話の設備を通らず、MVNOのデータ通信の設備を通ります。キャリアの音声通話の設備を迂回(うかい)することで、MVNOが比較的自由に通話料金を設定することが可能になるのです。通話料は1分あたり数円~十数円程度、また、同じサービスのIP電話同士であれば通話料無料ということが多いようです。


IP電話の仕組み

 代表的なIP電話のサービスとして、NTTコミュニケーションズの「050 plus」やケイ・オプティコムの「LaLa Call」などがあります。これらのサービスではIP電話のために050から始まる新しい電話番号が発行され、この電話番号を使って通話を行います。


050IP電話の仕組み

 IP電話の中には、090/080/070番号をそのまま使えるというサービスもあります。ニフティの「NifMoでんわ」などがこれに該当します。これらのサービスでは電話をかけるときにだけIP電話の設備を使い、電話を受ける時にはキャリアの音声通話設備を使うという、変則的な仕組みとなっています。


090/080/070IP電話の仕組み

 また、SkypeやLINEの無料通話のように、電話番号を使わない通話サービスもあります。これらはそれぞれのアプリ同士での通話は可能ですが、一般の電話との通話は行えません。

 IP電話は全体的に通話の音質があまり良くないという特徴があります。データ通信が良好にできている場合はそれほど音質が気になることはありませんが、電波が弱いところや混雑によってデータ通信が途切れ気味になると、急に音質が悪くなります。音声通話のために用意された通信設備ではなく、データ通信のための設備を経由しているため、通信制御の方法が音声をやりとりするにはあまり向いていないのが原因です。

中継電話を使う方法

 電話料金を安くするための別の方法に、中継電話があります。これは、IIJmioの「みおふぉんダイアル」や、楽天の「楽天でんわ」、FREETELの「携帯革命通話料いきなり半額」などで使われています。


プレフィックス番号を付けることで、通話料が通常の半額になる「みおふぉんダイアル」

 この方法では、文字通り電話を中継するための設備をMVNOや、その提携事業者が提供しています。電話をかける際に、指定された「プレフィックス」と呼ばれる番号を先頭に追加することで、直接相手の電話につなげるのではなく、いったん中継電話の設備に入ってから相手の電話に電話がつながります。


中継電話の仕組み

 中継電話の設備こそ間に挟まりますが、中継電話の設備を含めて使用される設備は全て音声通話のためのものです。このため、IP電話のような音質の劣化はなく、通常の携帯電話と遜色のない品質で通話が行えます。

 中継電話を使ったサービスでは10円/30秒と、通常電話の半額程度の通話料で提供されています。

中継電話はどうして安くなるの?(接続料について)

 中継電話の仕組みは以上の通りですが、中継電話の設備(会社)が間に挟まることで、電話料金が安くなるというのはあまり直感的ではありません。この理由を説明するためには、まず電話会社同士の通話料金の精算方法から説明する必要があります。

 次の例は、携帯電話会社Aの利用者Xが、携帯電話会社Bの利用者Yに電話をかけた場合の料金精算の方法です。


接続料について

 この通話についての通話料金は、携帯電話会社Aが電話をかけた人(利用者X)に請求します。支払われた通話料金は、もちろん携帯電話会社Aの収入にもなるのですが、その一部が携帯電話会社Aから携帯電話会社Bに支払われます。通話の際に携帯電話会社Aの設備だけでなく、携帯電話会社Bの設備も利用しているため、その設備利用分を携帯電話会社同士で精算しているのです。

 この設備利用費用を「接続料」や「アクセスチャージ」と呼びます。接続料の仕組みは携帯電話だけでなく、NTT東西などの固定電話や050IP電話を提供する会社にもあります。携帯電話会社では1秒あたり0.05円~0.08円程度に設定されているようです。(以降、接続料を30秒あたり2円として説明します)

 次に、中継電話が入った場合の料金精算の方法を説明します。

 中継電話を使う場合、通話料金を負担するのは通常と同様、電話をかけた人(利用者X)ですが、その請求は携帯電話会社Aではなく、中継電話会社Pが行います。そして、中継電話会社Pが、携帯電話会社A・Bに「接続料」を支払います。

 このとき、いくつかのケースでは利用者に請求する通話料を中継電話会社Pが設定することができます。その仕組みを活用して、中継電話会社は通常の電話よりも安価な通話料を設定しています。

 例えば、中継電話会社Pが利用者Xに10円/30秒と割安な料金で請求したとしても、携帯電話会社A・Bへの接続料の支払いはそれぞれ2円/30秒です。中継電話会社Pの手元には6円/30秒程度が残ることになるため、通信サービスが成立するのです。


中継電話が入った場合の接続料

 また、先ほどの例とは異なり、電話をかけた人(利用者X)と電話を受けた人(利用者Z)が同じ携帯電話会社Aを使っている場合は、以下のようになります。

 中継電話を挟まない場合は通話は携帯電話会社Aの中で完結し、接続料の精算も発生しません。中継電話を挟んだ場合は、一度通話は携帯電話会社Aから中継電話会社Pに入り、折り返して接続されます。また、このときの通話料は中継電話会社Pが利用者Xに請求しており、携帯電話会社Aには往復分の接続料が支払われることになります。


中継電話が入った場合の同一キャリア間の通話

 中継電話を使ったサービスは、料金請求を電話をかける側の電話会社でも、電話を受ける側の電話会社でもない、第三の電話会社(中継電話会社)が行う点がポイントです。このため、こういったサービスを「第三者課金サービス」と呼ぶこともあります。また、電話をかける際の「プレフィックス」からとって「プレフィックスサービス」と呼ぶこともあります。

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