ユーザーが多いほど効率アップ “生中継”に効く動画配信技術「LTE-Broadcast」とは(2/3 ページ)
スマホの動画視聴が増え、モバイルトライフィックの効率化が急がれている。ソフトバンクは9月、ヤフオクドームで「LTE-Broadcast」という技術の実証実験を行い。その効果を確認した。
技術面の優位性は確かだが、魅力的なサービス像が課題
技術的な実験とはいえ、一般ユーザーが参加する以上、使用感を体験できる最低限のサービスが必要になる。今回は球団の独自カメラによるマルチアングル映像5種類(投手と打者の左右と、バッターボックスの真上から)と、TVバンクが制作するテレビ中継向けの映像1種類(これはスポナビライブと同じでもある)を試作アプリに配信して、その使い勝手などを調査した。
解像度はHD(1280×720)で、マルチアングル映像は2画面表示も可能だ。加えて、データスタジアムが配信するボールカウントやスコア、ランナー、球種などの試合情報も用意。映像を含む配信用データは、コアネットワーク上に設置されたQuickPlay製のコンテンツ配信サーバに集約され、再びコアネットワークを通ってヤフオクドームにUターン。球場に増設された実験用のTDD方式基地局から、限定エリア内のスマホに向けて届けられた。
現地で実際に使ってみたが、目の前の試合と配信される映像の遅延は、体感上で10秒程度。目の前の試合をすぐにリプレイで見るという感覚だ。アプリで映像を切り替える際のレスポンスも早く、野球観戦のテンポが崩れるということはなかった。既存のLTE方式で配信するスポナビライブが30秒近く遅延するので、それと比べるとかなりタイムラグは少ない。遅延は今後のチューニングでより少なくなるというが、遅延が1秒程度のデジタルテレビ放送には追い付けないようだ。
もっとも、遅延の少なさだけがLTE-Broadcastの利点ではない。どの程度モバイル回線を効率的に使えたのかは「分析中」とのことだが、同報配信のため、受信するユーザーが増えれば増えるほど、その効果は高まるという。
LTE-Broadcastの可能性を垣間見た実証実験だったが、サービスの内容がこのままで良いのかはまた別の話で、これはソフトバンクも認めている。アプリの使い勝手や映像の品質が洗練されるのはもちろんだが、そもそも3時間近いプロ野球の生観戦でスマホを持ち続けるのは難しい。
プロ野球観戦に限れば、観客は応援グッズや飲み物や食べ物を手にするため、シートにはカップホルダーならぬスマホホルダーが必要になるだろう。そうなると専用の電源も欲しくなる。さらに昨今のプロ野球は試合中のファンサービスも豊富で、観客も参加する選手ごとの応援やイニング間のミニイベントなど、長丁場を飽きさせない工夫が盛りだくさんだ。
注目プレイや選手情報は外野の大型ビジョンでも表示され、スマホを見る間がないときもある。スマホでじっくり見たい映像となると、ベンチ裏やブルペンの様子など、ややマニアックな領域になってしまう。インフラ面の課題が解決しても、どんな付加価値を用意できるかはまた別の課題で、「スタジアム限定で付加価値のある映像を配信する」以外の提案も必要だろう。
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