LTEをもっと快適に――Qualcommの同報配信技術「eMBMS」 2013年に商用サービス開始予定
1つの場所にユーザーが集まるほどネットワークの負荷は増すが、「マルチキャスト」を利用すれば、多数のユーザーに大容量のデータを一斉配信できる。QualcommはLTE網でのマルチキャストサービス「eMBMS」の開発を進めており、2013年の商用化を目指している。
4月25日と26日に東京で開催された「2012 Japan-China TDD Forum / GTI Ad Hoc Seminar」にて、QualcommがLTEネットワーク上のマルチキャストサービス「eMBMS」(evolved Multimedia Broadcast Multicast Service:LTEブロードキャスト)のデモとロードマップを紹介した。eMBMSは、LTEネットワークの周波数を利用して不特定多数のユーザーにデータを同時配信できる技術で、QualcommがEricssonとともに開発を進めてきた。基地局と端末が1対1で通信する「ユニキャスト」よりも効率よくデータを配信でき、ネットワークの負荷を抑えられるのが利点だ。LTEの帯域のうちどの程度をマルチキャストに使用するかはコントロール可能。日本でもKDDIがEV-DO Rev.Aのネットワーク上でマルチキャストシステム「BCMCS」を活用し、「EZチャンネルプラス」「EZニュースEX」などのサービスを提供しているが、eMBMSはこれのLTEバージョンといえる。
通信キャリアはeMBMSに対応したソフトウェアをコアネットワークと基地局に導入し、端末はeMBMSを利用可能なチップセットを搭載している必要がある。もちろんソフト提供者が配信するコンテンツも必要だ。eMBMSの利用に必要なチップセットはSnapdragonの最新バージョン「Snapdragon S4」の「MSM8960」。MSM8960を搭載した端末はまだ発売されていないので、現在発売中のLTE端末ではeMBMSは利用できない。eMBMSの仕様は3GPPで標準化されているので、その技術をベースにすれば他社のチップセットでもeMBMSは利用できるが、同社によると「eMBMSの2〜3割ほどはQualcommの独自機能のため、他社のチップで利用できるのは7〜8割ほどの機能」に限られるという。
Qualcommが想定しているeMBMSの利用シーンの1つが、コンサートやスポーツイベントなど、大多数のユーザーが1カ所に集まるような環境で、ユーザーに別角度からの映像を配信するというもの。例えばサッカーのスタジアムの観客に、試合の様子を伝えるマルチアングルの映像をスマートフォンやタブレットに配信するといった活用法がある。映像(この場合はサッカー)に関連する情報もマルチキャストで配信し、試合のデータなどを把握できる。普段使いの活用例としては、夜中に配信された映像を翌朝以降に視聴する、OSアップデート用のデータを夜中に配信してアップデートを実施する、といったことが説明された。OSのメジャーアップデート用のファイルは、該当ユーザーへ“順次”配信される場合が多いが、マルチキャストを活用すれば短時間で全ユーザーに配信できるだろう。
日本ではドコモの「Xi」とイー・モバイルの「EMOBILE LTE」ともに、2012年度末までに人口カバー率が70%に達する見込みなので、早急にeMBMSが導入されるイメージは湧きにくいが、例えばLTEエリアから3Gエリアに移動した際に「通信事業者がユニキャストにハンドオーバーさせることは可能」(Qualcomm担当者)とのこと。また、eMBMSは「FD-LTE」と「TD-LTE」の両方に対応しているのも特徴の1つ。ソフトバンクモバイルが提供している「AXGP」を活用した「SoftBank 4G」はTD-LTEと互換性があるため、AXGP上でもeMBMSの提供は可能だという。FD-LTEを利用しているドコモについては、4月1日に開始した携帯向けマルチメディアサービス「モバキャス」にて、(マルチキャストとは異なるが)放送波を使ったコンテンツの一斉配信が可能なので、あえて類似するeMBMSを導入する可能性は低そうだ。
Qualcommは2013年にeMBMSの商用サービス開始を目指しており、TD-LTE向けについては2013年前半に開始する予定。サービスを導入する地域や事業者については「現在はコメントできない」(Qualcomm担当者)とのこと。次の発表を待ちたい。
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