サイバーエージェント藤田社長が「AbemaTV」でマスメディアを目指す理由:佐野正弘のスマホビジネス文化論(1/2 ページ)
600万ダウンロードを突破し、スマホ時代の新たな“テレビ”としてユーザーを広げている「AbemaTV」。ストリーミング型の動画配信に参入したサイバーエージェントの狙いとはなにか? 藤田社長を直撃した。
高品質の番組が完全無料で視聴できると人気の動画配信サービス「AbemaTV」。サービス開始当初から大きな話題となり、7月25日には600万ダウンロードも突破した。しかし、チャンネル構成のねらいや収益構造など、未知数の部分も多い。
サイバーエージェントはなぜ動画配信サービスを始めたのか、AbemaTVはどこを目指そうとしているのか。サイバーエージェント社長で、テレビ朝日との合弁企業であるAbemaTVの社長も務める藤田晋氏に話を聞いた。
Abema TVのコンセプトはAWAから生まれた?
2011年の「Hulu」、2015年の「Netflix」と、海外のサービスが上陸するたびに大きな注目を集める動画配信サービス。かつてはテレビと比べると、ネット動画はコンテンツの質で弱さがあるといわれてきたが、端末やネットワークの進化に加え、動画配信サービスの人気の高まりによって権利者側の意識も変わってきた。最近ではクオリティーの高い番組や動画配信“限定”の作品も目に付くようになった。
見たいときに見たいコンテンツをオンラインで再生できるVOD(ビデオ・オン・デマンド)という仕組みに加え、1000円前後の定額料金で見放題となる手軽さも人気の理由といえるだろう。だがVODの有料定額動画サービスと一線を画するのが、4月11日にサービスを開始した「AbemaTV」だ。
AbemaTVは、サイバーエージェントとテレビ朝日が共同で設立したAbemaTVが運営する動画配信サービス。最大の特徴は、基本的に無料で視聴できるということ、そしてテレビのように時系列で番組がストリーミング配信されることだ。しかも、CS放送やケーブルテレビのように、ニュースからスポーツ、音楽、アニメなどさまざまな分野の専門チャンネルを26も用意している。
番組の多くは、CS放送や地上波などでも流れる“放送品質”のものだ。AbemaTVが独自に制作するオリジナル番組も、地上波に出演するようなタレントを多く起用するなど、これまでの無料動画配信サービスとは大きな違いがある。
ある意味、インターネット上にテレビ局をそのまま持ち込んだともいえるAbemaTVだが、そもそもなぜこのようなサービスが生まれたのだろうか。藤田氏によると、「テレビ朝日放送番組審議会のメンバーになったのがきっかけだという。「Netflixなどの上陸を受けて今後どのようなサービスを提供するべきか、テレビ朝日側の立場になって考えた」ことから、動画配信サービスを手掛けるに至ったのだという。
そしてもう1つ、AbemaTVのサービス内容を考える上で大きな影響を与えたのが、サイバーエージェントがエイベックス・デジタルと共同でサービス提供している定額音楽配信サービス「AWA」だ。AWAもオンデマンドではなく、音楽をラジオのように聴けるストリーミングサービス。「楽曲を自ら探して購入するのではなく、さまざまな楽曲を受け身で聴く、受け身の視聴スタイルを開拓したことから、それを映像配信に持ち込むことを考えた」のだそうだ。
映像配信に受け身視聴のスタイルを取り入れ、さらに現在、スマートフォンやPC、タブレットなどで動画を視聴するスタイルが広まっていることから、そうしたデバイスで視聴することを前提にサービス設計を進めた。その結果として、現在のAbemaTVの形が生まれたのだそうだ。
マスメディアを目指し利用拡大に注力
先に触れた通り、AbemaTVは基本的に無料で視聴できるが、オンデマンドではなくテレビのように番組がリアルタイムで進行する。そのため見逃した番組を視聴する場合は、月額960円(税込)のプレミアムプランに入り、オンデマンドで視聴を楽しむこともできる。無料視聴の場合は番組間に広告を流し、広告と有料課金の2本立てで売り上げを上げるというのが、AbemaTVの基本的なビジネスモデルとなる。
最終的には広告が7割、有料課金が3割といった収益構造を描いているようだが、「現時点で収益を成り立たせようとは1ミリも考えていない」(藤田氏)とのこと。その理由は、「AbemaTVをマスメディアにするという大きな目的があるから」と藤田氏は明かす。
「サイバーエージェントはもともとインターネット広告企業」と言い切る藤田氏は、「広告ビジネスを成立させるにはやはり規模。メディアを利用する層を細かくターゲティングしても、あまりビジネスにならない。大きなメディアこそ広告が売れる。AbemaTVの広告効果を上げるには“マスメディア”にしなくてはいけない」と話す。テレビと同じような受け身視聴のサービスとしたのには、マスメディアとして成長させ、広告ビジネスを行う目的も大きいようだ。
AbemaTVは4月11日のサービス開始当初から大きな注目を集めており、3カ月強で600万ダウンロードを記録するなど、順調にユーザー数を拡大している。だがマスメディアを目指す上では一層のユーザー獲得、さらには継続的に視聴してもらうための取り組みが求められている。
そうしたことからAbemaTVは現在、プロモーション活動に非常に力を入れている。7月中旬から一部地域を除く全国でテレビCMを放映しているほか、新聞の折り込み広告も配布。さらに夏休み中の10〜20代ユーザーを意識し、東京・渋谷の109で街頭イベントを行うなどしている。
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