サイバーエージェント藤田社長が「AbemaTV」でマスメディアを目指す理由:佐野正弘のスマホビジネス文化論(2/2 ページ)
600万ダウンロードを突破し、スマホ時代の新たな“テレビ”としてユーザーを広げている「AbemaTV」。ストリーミング型の動画配信に参入したサイバーエージェントの狙いとはなにか? 藤田社長を直撃した。
ニュースとレギュラー番組重視の構成、意外な人気は“マージャン”
では、現在26あるチャンネルは、どのように編成されているのだろうか。藤田氏はAbemaTVのターゲットを「10〜20代を中心とした、あまりテレビを視聴しなくなった層」に据えていると話す。そこで、ゴールデンタイムのバラエティ番組にある“テレビ的な派手さ”ではなく、スマホネイティブ世代に受け入れられるキレイでカッコいい映像を見せることにこだわって、番組やチャンネルを構成しているという。
しかしながら、藤田氏がAbemaTVで最も重視しているのはニュースなのだという。「チャンネル自体は番組を購入すれば増やせるが、ニュースの配信はテレビ局と組まなければ無理。メディアの根幹はニュースだと思います」(藤田氏)というのがその理由だ。そこでAbemaTVは、テレビ朝日のスタッフも参加するニュース専門の「AbemaNews」チャンネルを24時間配信している。
そしてもう1つ重視しているのが、レギュラーのオリジナル番組や特別番組などを配信する「AbemaSPECIAL」。AbemaTVならではの番組が流れる、独自性の高いチャンネルといえるだろう。このニュースとスペシャルは、アプリ起動時に最初に表示するチャンネルでもあり、AbemaTVを象徴するコンテンツでもある。
ではAbemaTVで最も人気が高いのはどのような番組なのだろうか。藤田氏によると、「人気が高いのはやはりアニメ」だそうで、特に強いファンが付いている最近のコアなアニメの人気が高いとのこと。全26チャンネルのうち、アニメ関連が5つあることから、人気の高さをうかがうことができる。
一方で、意外な人気を得ているのが、藤田氏自身もよく出演する「麻雀チャンネル」である。大のマージャン好きとしても知られる藤田氏は、麻雀最強戦(近代麻雀主催)で2014年の最強位になるなど「むしろ本業と思っている」ほどの腕前。それだけに思い入れもひとしおのようで、「マージャン専門チャンネルはこれまであまりなく、番組もコアファンしか見えていなかった。一般の人達に見せる場があれば、関心を持ってもらえるのではないかと思った」(藤田氏)と、ファンの広がりに期待する。他のチャンネルは何らかのベースがあった上で設計しているが、麻雀チャンネルだけは新しい視聴を提案するため、あえて加えているという。
こうしたコンテンツ視聴を盛り上げる仕組みが、ユーザーコメントの存在だと藤田氏は話す。「コメントは双方向の本命。1人で番組を視聴していても、コメントで多くの人がいろいろなことを言っていることで安心感が得られる」(藤田氏)とのことで、テレビなどでは実現しにくいコメントの存在が、シンプルながらも視聴には大きく影響しているようだ。
もっとも、現在AbemaTVの視聴者は7割ぐらいが男性であるとのこと。それゆえ今後は女性の視聴者を増やすべく、ドラマなどにも力を入れていくという。7月には「海外ドラマ」チャンネルを開設したほか、関西テレビやテレビ東京のドラマを配信することなどを発表しているが、「いずれは女性に見てもらえるドラマなども制作していきたい」と藤田氏は話す。
「FRESH! by AbemaTV」とのすみ分けは?
サイバーエージェントは2016年1月、AbemaTVに先んじる形で、配信事業者向けのオープン型動画ライブ配信サービス「AmebaFRESH!」を開始した。
現在このサービスはAbemaTVに移管され、「FRESH! by AbemaTV」(以下FRESH!)としてサービスを提供しているが、サイバーエージェントとしてAbemaTVとFRESH!は、どのようにすみ分けを図っているのだろうか。
藤田氏はこの点について、「FRESH!はオープンなプラットフォーム。サードパーティーが制作した番組を流す放送局で、AbemaTVはそれを応援する立場」と話している。FRESH!は自社で動画を調達・制作するのではなく、あくまで“生配信”のプラットフォームとして、配信事業者らに利用してもらうという位置付けだ。
FRESH!には月額課金制で有料配信ができる仕組みがあり、8月末からは広告収入を得られる仕組みなど、コンテンツ提供者に対する収益手段の拡大を進めている。「有料にしないとチャンネルが成り立たないが、無料でないと動画を視聴してもらえない。そうした場合でも、広告によって無料と有料の動画配信を両立できるようになる」と藤田氏は話しており、動画を配信する企業などに収益手段を提供することで、一層多くのコンテンツを提供してもらうことを見込んでいるようだ。
実はサイバーエージェントでは、これまでも「メールビジョン」や「AmebaVision」「アメスタ」などさまざまな動画配信サービスを展開してきた。そうした経験から藤田氏は、動画配信サービスを展開する上で「視聴習慣を付けさせることが大事。短期的な視聴ではなく、続けてみてもらうことが必要」だと話す。著名人や人気アーティストを起用すれば瞬間的に視聴者数は増えるが、それが継続的な視聴につながるとは考えていないという。
藤田氏はAbemaTVでは派手な取り組みよりも、「レギュラー番組を張り巡らせることで『この時間にはこの番組がやっている』という安心感や、幅広いチャンネルを用意することで、横の視聴を固めることに力を入れていく」と話し、獲得したユーザーを継続的な視聴に結び付けるための取り組みを進めていく姿勢を示した。短期的な収益ではなく、AbemaTVをマスメディアに匹敵する規模に育てていくことが、現在の目標となっているようだ。
さらに「ここからスターを生み出さないと、新たなメディアとして成功したとはいえない」(藤田氏)という目標もある。人気スターを起用してサービスに人を集めるのではなく、サービスとして成功を収め、そこから人気スターを生み出すという考え方は、これまでのインターネットサービスではあまり見られなかったものだ。
それだけに、藤田氏がAbemaTVにかける意気込みは非常に強いものだといえるだろうし、今後AbemaTVをどこまでユーザーの生活に浸透させられるか、大いに注目されるところでもある。
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