モバイル市場の「あるべき姿」とは? 総務大臣政務官 小林氏と野村総研 北氏に聞く(3/3 ページ)
総務省で開催された「モバイル市場の公正競争促進に関する検討会」を踏まえ、4月に報告書が公開された。この検討会の真の狙いはどこにあり、モバイル市場の「あるべき姿」とは? 総務大臣政務官の小林史明氏と、野村総合研究所の北俊一氏に聞いた。
中古端末と2年縛り、端末購入補助は表裏一体
―― ちょうど中古端末のお話が出ましたが、3つの柱がある中で、中古端末はやや唐突感があるようにも見えました。なぜ、ここで中古端末のお話を議論したのでしょうか。
北氏 厳しい質問ですね(笑)。ただ、2番目の柱(中古端末)と3番目の柱(2年縛りや端末購入補助)は、表裏一体だと考えています。新品が一括0円で売られていたら、中古端末を買う人がいなくなるのは当然です。しっかり意思を持って価格をつける一方で、それに呼応して中古端末が流通する仕組みを並行して作らなければなりません。また、総務省で登録修理業者制度を作りましたが、なかなか整備部品が手に入らないという問題もありました。ここも含めて、総務省が後押しする形になりました。
小林氏 通信事業者同士のフェアな競争以外にも、端末メーカーと通信業界の関係性もあり、そこもフェアにした方がいいと考えています。仮に中古端末を売らないでくれという話があったとすると、そういうことは止めないといけない。成熟国の日本としても、携帯端末を使い捨てるようなことは望ましくないと考えています。今は極端に知識のあるしか触らないものを、一般化、民主化するのは、それなりの対応をする必要があります。
北氏 今は、よく分かっている人しか使いません。中古端末を使いますかというアンケートを取ると、やはりイメージが悪い。「誰かが使ったスマホでしょ」というものや、「データが残っていたらやだ」という誤解もあります。ただ、実際にはデータはちゃんと消されて、端末はリファービッシュされています。これだけスマホを見ている石野さんでも、両方出されたら、どちらが新品かは分からないですよね。
【訂正:2018年6月19日14時57分 初出時に、「よく変わっている人しか使いません」としていましたが、正しくは「よく分かっている人しか使いません」でした。おわびして訂正致します】
―― はい(笑)。外観が新しくなっているので、見分けはつかないですね。
北氏 そういう新品同然ですよという理解が広まれば、必然的に中古市場は拡大していくと思います。
小林氏 そういった強いメッセージを送って意識を変えるのは、官がやらなければいけないことです。
2年縛りは何が悪いのか?
―― 2年契約については、あまり大きな改善要請がなかったような印象を受けました。こちらについてはいかがでしょうか。
北氏 私はICTサービス安心・安全研究会や、いわゆる2年縛りタスクフォース(利用者視点からのサービス検証タスクフォース)のメンバーでしたが、一貫して「2年縛りは何が悪いのか」と(疑問を)言っていました。ただ、それをちゃんと説明せず、2年縛り以外を選択肢として示していなかった。そういうところは、消費者保護ルールを決めています。2年間安くなりました、その次の2年間も安くします。この繰り返しであれば、悪くないと思います。
ただ、タスクフォースの前は、メールで満期になりますというお知らせもなく、2年間売ったきりで、ほとんどお客さんもショップに来ない。僕はOutlookに満期の時期を買ったときに入れていますが(笑)、普通の人は絶対そんなことはしません。そうすると、違約金がかかってしまう。ここを2年縛りタスクフォースのときに詰めてやって、3キャリアからそれなりのプランが出てきました。いったんOKが出たものを、もう1回蒸し返すのはどうなんだと思い、私はほとんど発言していません。
とはいえ、それも程度問題です。もともとの料金が4200円(カケホーダイの2年契約がない場合など)で、2年使う約束をすると1500円も安くなり、7カ月で元が取れてしまいます。これだけ価格差が大きいと、さすがに誰もが2年縛りを選択してしまう。4200円という縛りなしの料金設定が適正なのかという話は、2年縛りタスクフォースでも一瞬だけ出ました。一方で、これは厄介な話で、料金の適正性とは何かという話になります。当時は、4200円が見せ玉で、真の通信料金は別という話もありましたし、ここは今後メスを入れてもいいところだと思っています。
【訂正:2018年6月19日14時57分 初出時に、「2年使う約束をすると1700円も安くなり」としていましたが、正しくは「2年使う約束をすると1500円も安くなり」でした。おわびして訂正致します】
―― 報告書では、「自動更新の有無による提供条件の格差の縮小について検討を要請」とありましたが、auやソフトバンクは更新後に2年契約を選ばないと、300円ほど料金が上がります。一方で、ドコモは「ずっとドコモ割」が付かなくなりますが、料金プラン自体は同じです。これは、ドコモ方式が正しいということでしょうか。
北氏 ドコモはタスクフォースに対して満額回答でしたが、KDDIとソフトバンクは料金が300円上がってしまいます。格差の縮小とは、それに対してのことで、小さな問題でも、しっかり対応しなければいけないと思います。元をたどると、キャッシュバックも違約金をうちが持ちますというところから始まり、気づいたら残債を持ちますという形でエスカレートしていきました。さらに元をたどると、24カ月でスッパリやめたくても、25カ月目に申請すると通信料金がかかってしまうということもあります。小さなことですが、1つ1つなくしていく努力は必要です。
小林氏 北さんのお話したそこ(25カ月目の料金が必要なこと)が一番アンフェアだと思っていて、今の仕組みだと24カ月ちょうどで(お金を払わず)やめられません。いかに制度をシンプルにするかは重要でした。ここで挙げた問題は、全部つながっているからです。携帯電話事業者は3社で均衡していて、その中で競争が落ち着いています。端末値引きや残債、2年縛りの話に中古端末などもそうです。その構造を断ち切っていくためには、1つ1つ、細かいところまでやっていく必要がありました。
2年縛りの現状。契約から2年以内に解約すると、解約料が請求されるが、解約料無しで解約できるのは、3キャリアとも25カ月目や26カ月目に限られる。なお、総務省は6月3日に3キャリアに対して実施した行政指導で、自動更新を伴う定期契約について、解約金(違約金)と25カ月目の通信料金のいずれも支払わずに解約できるように、2019年3月末までに対策するように求めている(関連記事)
取材を終えて:MVNOも競争のステージを変える必要がある
小林氏が「小さなものから大きなものまで、全てテーブルに乗せた」と語っていたように、検討会のテーマは多岐にわたっていた。当初は細かすぎると思った筆者だったが、実際、ソフトバンクは検討会の報告書を待たずにMVNOのSIMカードでiPhoneのテザリングを使えるようにしており、問題を解決する場として一定の効果があったことがうかがえる。
一方で、MNOのサブブランドに対する「ミルク補給」の問題などは、これから検証を始める段階で、検討会だけでは解決に至らなかった。帯域幅の柔軟な変更や、音声卸料金の低廉化といった議題についても、今後の検討課題が示されているだけだ。サブブランドの攻勢に苦しんでいるMVNOにとっては、肩透かしな結論だったかもしれない。
むしろ、北氏が「一見、MVNOを守るように見えたかもしれない検討会だったが、実は逆で、MVNOにとっては言い訳ができなくなる」と述べていた通りで、場合によってはMVNO側が厳しい状況に立たされる可能性もありそうだ。小林氏が「競争のステージを変える」と語っていたが、MNOだけでなく、MVNO側にもそれが求められている印象を受けた。
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