場所やデバイスを問わず決済 Amazon Payが目指す「コネクテッド・コマース」の世界
Amazonの決済サービスといえば、日本では「Amazon Pay」がおなじみだが、海外では実店舗と連携した、より先進的な取り組みを進めている。Amazon Pay事業本部 事業部長の井野川拓也氏が同社の決済戦略を語った。
Amazonの決済サービスといえば、日本では「Amazon Pay」がおなじみだが、海外では実店舗と連携した、より先進的な取り組みを進めている。6月21日に日本キャッシュレス化協会が開催した「キャッシュレスが創る未来」で、Amazon Pay事業本部 事業部長の井野川拓也氏が登壇し、同社の決済戦略を語った。
Amazon Payを使うメリット
Amazonが2015年から日本で提供している「Amazon Pay」は、Amazon以外のECサイトでも、Amazonのアカウントを使って決済を可能にするソリューションだ。Amazon Payの導入企業は提供開始から約3年で数千社まで増え、Amazon Payの決済金額もそれに比例して右肩上がりで伸びている。
ユーザーはECサイトの支払い方法で「Amazonアカウントでお支払い」を選べば、新たにクレジットカードを登録せず、Amazonに登録しているクレジットカードで支払える。井野川氏は、ユーザーがAmazon Payを使うメリットとして「AmazonのID1つで支払える利便性」「スピーディーな入力」「(商品の状態や配送を保証する)マーケットプレイス保証の対象にもなる安心感」を挙げる。
一方、店舗がAmazon Payを採用するメリットは「新規顧客の獲得」「コンバージョンレートの改善」「不正取引対策」の3点だと井野川氏は説明する。
顧客獲得については、2015年12月から2016年12月にかけて、Amazon Payを導入した約150店舗は56%顧客が増加し、Amazon Payを導入していない約400店舗と比べて約50%高いという調査結果も出ている。
コンバージョンレートとは、ECサイトでカートを入れた商品を、実際に買ってもらった割合のこと。これもAmazon Payを導入していない店舗が63%だったのに対し、Amazon Payでは93%と高い数値を出している。「購入フローに入っても、Amazon Payを導入していないところでは、3人に1人がやめてしまうが、Amazon Payを導入している店舗では9割以上が購入完了に至っている」(井野川氏)
不正取引対策については、Amazon.co.jpと同じ不正検出方法を使っているとのこと。「中国や欧州の不正情報を共有しているので、不正を未然に防げる」と井野川氏。
海外で進む実店舗とオンラインの連携
Amazon Payは、Webサイト、スマートフォンアプリ、Alexa対応のスマートスピーカーが対応しており、海外ではAmazonの決済方法を実店舗に広げる取り組みも展開している。このように、デバイスや場所を問わずAmazonのショッピング体験ができる取り組みを「コネクテッド・コマース」と同社は呼んでいる。
井野川氏は、Amazonが米国で展開している、オフラインでのショッピング事例を紹介。リアル書店の「Amazon Books」では、スマホアプリから本棚にあるバーコードを読み取り、レジで見せるだけで、Amazonのアカウントで買い物ができる。
シアトルに1号店があるAmazonのコンビニエンスストア「Amazon Go」は、実証実験を経て、2018年2月に一般開放している。アプリを開いて入店してQRコードを読み込むとチェックインでき、欲しいものを取ってそのまま店を出ると、Amazonアカウントで代金が精算される仕組み。レジに並んで精算する必要がないのが特徴で、センサーが来店者の顔を認識し、誰が買い物をしているかを把握している。
「棚から商品を取って違う棚に返す、他の人が取った商品を入れるとか、いたずらっぽいこともやったが、毎回ちゃんと認識して、買ったものが正確に反映された。優秀だと感じた」と井野川氏が言うほど、認識の精度は高いようだ。
「よくある仕組みとして、RFIDのタグを商品に付けて、何を買ったかを見ることが多いが、事業者がそれぞれの商品にタグを付けないといけない。Amazon Goは、センサーやカメラでお客さまを追うので、タグを付ける手間が発生しない。オペレーションの工数はかなりセーブできる」と店舗側のメリットも付け加えた。
高級ファッションを扱う店舗「Moda Operandi」とは、オンラインストアと実店舗を連携させる実証実験を展開している。オンラインストアにAmazon Payを導入している他、実店舗でもキャッシュレスで決済できる取り組みを進めている。
Moda Operandiのアプリを使っている人が来店すると、ビーコンがユーザーを検知し、店舗スタッフのiPadに通知が届く。その通知から、来店者がオンラインでどんな商品を買い、カートに入れているかなどが分かる。「以前買ったドレスに応じて靴やバッグなどを勧めたり、カートに入れた商品が今日試着できます、といった接客をしたりできる」と井野川氏。支払いにはAmazonのアカウントを使えるので現金やクレジットカードを出す必要がなく、購入した商品を、Amazonに登録した住所に送ることもできる。
これらの機能は全てAmazonのアプリに実装されているため、アプリ開発や、ダウンロードしてもらうためのマーケティング施策にコストをかける必要がないのもメリットだ。
飲食店のTGI Fridaysとは、Amazonのショッピングアプリにメニューを取り込み、店舗へ行く前に注文と決済ができる取り組みを行っている。「事前決済しておけば、行列に並ばずに済む。前回頼んだチーズバーガーとコーヒーを頼みたければ、『リオーダー』ボタンを押せばよい」と井野川氏はメリットを説明する。
また、米国や英国ではAlexaのスキルとAmazon Payを連携させ、対応サービスでAmazon Echoから決済が可能になっている。こうした新たなデバイスとの連携も進めていく考えだ。実店舗とオンラインストアの連携は、海外での事例が中心だが、日本でもコネクテッド・コマースの世界がさらに広まることに期待したい。
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