手数料0%よりも“顧客体験”が重要 みずほ銀行のモバイル決済戦略を聞く:モバイル決済の裏側を聞く(2/3 ページ)
みずほ銀行が、Android向けに銀行口座直結の決済サービス「スマートデビット」を提供。iOS向けには、JR東日本と提携して「Mizuho Suica」も開始した。みずほ銀行は、モバイル決済に関してどのような戦略を持っているのだろうか?
Android版でQUICPay+を採用した理由
QUICPay+でのJCBと連携したのも、顧客体験価値向上の一環だ。現在、みずほ銀行らメガバンクを含む全国銀行協会では経済産業省の旗振りの下でQRコード決済の規格統一に向けた動きを進めているが、QRコード決済が使える加盟店の開拓にはまだまだ時間がかかると筆者自身もみており、恐らく多くの人が恩恵を受ける程度までインフラが普及するのは先の話だろう。
一方でApple PayやGoogle Payに標準搭載された効果もあり、QUICPay+を使った非接触決済はコンビニやファミレス、ドラッグストアなど、既に多くの店舗で使える。「自前で100万店舗対応となると大変。顧客の利便性を考えると、ここは多数の加盟店網を持つ企業と提携しましょう」と判断した。「NFC、QRのどちらがよい、悪いということではなく、顧客体験価値が低い、使えないサービスに顧客はついてこない」という過去の前例を鑑みて、まずは組むことを優先したのだと西本氏は説明する。
また、複数あるFeliCaベースの非接触決済方式の中からQUICPay+を選んだ理由について、西本氏は次の通り説明する。
「どこと組むのかという点では、実質的にiDとQUICPay、(Suicaなど交通系の)IC陣営の3つしか選択肢がありません。みずほ銀行は、ブランドデビットの分野ではJCBと連携している関係で発行スキームがあり、そこを利用しました。また世界初のサービスということもあり、実際にシステム面で実現できるかという部分も重要でした。JCB、モバイル決済で実績のある大日本印刷(DNP)の仕組みを活用して、両者が組み合わさることで今回のサービスが実現できたのです」
本インタビューを行った際にはまだAndroid版しか発表されておらず、「iOS版については現時点で何も言えない」という回答だった。その後、すぐにiOS版が正式リリースされたわけだが、iOS版ではQUICPay+ではなくSuicaにチャージして利用する仕組みとなっている。
ここで作成された「Mizuho Suica」カードはApple Payの一部として動作し、通常のSuicaと同様に最大8枚を登録できるが、「Suicaアプリ」からは操作できない特徴がある。つまり、定期券や特急券などのオンラインでの購入サービスや登録は行えないため、「交通サービス利用」と「ショッピング利用」でカードを別々に管理する必要がある。
iOS版の決済手段がSuicaとなったのはApple Payの仕様による制限だが、今後もまだアプリ自体の拡張計画があるとのことで、Apple Pay自体の進化や仕様緩和により、利用可能な決済手段が増える可能性が考えられる。
利用のハードルを下げる工夫も
初期セットアップ時のハードルを下げることも重要だ。これも筆者の意見だが、バーチャル型のスマートフォン向け非接触クレジットカードの利用がおサイフケータイであまり広まらず、昨今サービス撤退が相次いでいる原因は、使い勝手の悪さにあると考えている。みずほ銀行では「ペーパーレス」を強調しつつ、印鑑や面倒な書類の郵送なく即時発行できる仕組みをアピールしている。
「オンライン上で本人確認できる点が特徴ですが、実は作業は若干面倒くさくなっており、設定完了に3~5分ほどかかります。店番口座番号や暗証番号を入れるだけではあるのですが、『簡単すぎると不安を感じる』という意見もあり、このあたりを分析したうえで調整しています。銀行サービスを使う場合、どうしても本人確認は必要ですが、安心安全に利用いただけるようにしています」(西本氏)
アプリそのものも、ユーザーインタフェースやユーザー体験を重視した形でスクラッチから作られている。よくある話だが、銀行のように複数のサービスを持つ会社が提供するアプリの場合、画面に機能を大量に盛り込んでサービスメニューが複雑化する傾向が強い。みずほWalletではアプリ開発を担当した大日本印刷や博報堂のデザイナーの意見を集めつつ、極力シンプルに構成した。
サービス提供にあたっては事前に20人ほどのユーザーに1~2時間ほどのテストを実施し、使い勝手のブラッシュアップに努めた。また、みずほWalletで構築されたアプリや仕組みを“ひな型”に、開発を担当した大日本印刷や関係各社を中心に外部提供していく計画もあるようだ。
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