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公約を果たしたドコモ、果たせなかった楽天/スマホは二極化が進む――2019年のモバイル業界を振り返る石野純也のMobile Eye(3/3 ページ)

改めて振り返ってみると、2019年は携帯電話の「料金」や、スマートフォンの「端末代」に大きな注目が集まった。ドコモは公約通りに分離プランを提供したが、楽天モバイルの公約は果たされなかった。分離プランの拡大に伴い、端末の価格は見かけ上、高額化するようになった。

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ミドルレンジ端末の拡大や、5Gに向けたフォルダブル端末が注目を集める

 分離プランの拡大に伴い、端末の価格は見かけ上、高額化するようになった。月々サポートなどの通信料金への割引がなくなり、“実質価格”を打ち出せなくなるためだ。スマートフォン自体の性能も底上げされ、ハイエンドモデルに固執する必要性も薄れつつある。こうした状況を踏まえ、各社ともミドルレンジモデルを強化した。とはいえ、ミドルレンジモデル自体は、MVNOの拡大とともに普及しており、docomo withなどの料金プランと合わせる形で大手キャリアも導入するようになっていたため、2019年ならではというわけではない。

 一方で、サムスン電子のGalaxyや、ソニーモバイルのXperiaなど、これまでハイエンド中心で勝負していた端末メーカーが、雪崩を打つようにミドルレンジモデルを投入したのは、2019年のトレンドといえる。サムスン電子は冬モデルとして「Galaxy A20」を導入。ドコモが2万円を下回る価格をつけ、話題をさらった。Xperiaも、ミドルレンジモデルの「Xperia 8」がY!mobileやUQ mobileに採用されている。GoogleのPixelシリーズにも、ミドルレンジモデルの「Pixel 3a」「Pixel 3a XL」が追加され、ドコモがPixel 3aを、ソフトバンクが両モデルを導入した。


ドコモは、秋冬モデルの目玉に「Galaxy A20」を据え、2万円を切る価格をアピールした

Y!mobile初のXperiaとして導入されたミドルレンジの「Xperia 8」。UQ mobileやauでも発売されている

Pixelシリーズ初となるミドルレンジモデルの「Pixel 3a」。ドコモとソフトバンクが導入した

 逆に、ミドルレンジモデルで高いシェアを誇っていたHuaweiは、2018年から続く米中貿易摩擦や、対イラン制裁違反の疑いに伴う米国からの禁輸措置に振り回された1年だった。5月にはドコモがフラグシップモデルの「P30 Pro」を発表、Huawei自身もSIMフリーモデルとして「P30」や「P30 lite」の販売を開始する予定だったが、米国商務省の制裁発動を受け、発売を延期するキャリアやMVNOが相次いだ。既存モデルへのサポートは続けられることになり、結局は3モデルとも店頭に並ぶことになったものの、新規モデルには、AndroidやGMS(Google Mobile Service)を搭載できない状況は続いている。

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Huaweiの「P30」(右)と「P30 lite」(左)。取り扱いを表明していたMVNO各社が、続々と発売を延期した

 実際、例年12月に発売されたMateシリーズは、5Gのサービス開始まで投入が見送られている。HuaweiはGoogleとの関係を優先しつつも、“プランB”として自身でエコシステムを強化する方針で、GMSに代わるHMS(Huawei Mobile Service)を用意。状況の変化がなければ、2020年に発売される端末には、HMSが搭載され、アプリもHuaweiが運営するAppGalleryからダウンロードする形になりそうだ。ただ、Google Playに匹敵するアプリをそろえるには、やはり時間もかかる。魅力的なGoogleのサービスも利用できなくなるのは痛手で、販売台数に急ブレーキがかかってしまう恐れもある。


世界シェア2位の膨大な端末の販売台数をベースにしながら、HMSの強化をもくろむ

 こうした状況を見越してか、競合の中国メーカーが日本市場の攻略にアクセルを踏み始めた。OPPOは、おサイフケータイや防水仕様に対応した「Reno A」を発売。Snapdragon 710や6GBのメモリを搭載しながら、3万円台という衝撃的な価格を打ち出した。Reno Aは、MNOである楽天モバイルでも販売され、品薄の状態が続いている。そのOPPOと世界4位を争うXiaomiも、2020年予定だった参入を巻き上げ、12月に日本に上陸した。また、販売代理店のFOXは、TCLコミュニケーションが初のTCLブランドとして開発した「TCL Plex」を投入。中国メーカー同士の戦いが、激化している。


OPPOはコストパフォーマンスに優れた「Reno A」を投入。指原莉乃さんを起用したCMも話題を集めた。他の中国メーカーも、日本市場攻略に力を注ぐ

 ミドルレンジモデルが注目を集めた2019年だが、ハイエンドモデルやフラグシップモデルの影が薄かったといえば、そうではない。中でもディスプレイそのものを折り曲げられるフォルダブルスマートフォンは、次世代に向けた新たな挑戦として注目を集めた。この分野で激しく火花を散らしているのは、「Galaxy Fold」を日本で発売したサムスン電子と、「Mate X」を開発したHuaweiだ。2社とも、発売前に問題が発覚するなどして、品質改善に時間がかかり、当初の予定より市場への投入が遅れたが、Galaxy Foldについては、店舗限定という形でauが取り扱うことになった。


紆余(うよ)曲折を経てauで発売されたサムスンの「Galaxy Fold」

Huaweiの「Mate X」も、日本市場を意識して開発された端末だという

 カメラの画質競争も進み、2019年は高倍率ズームや超広角レンズなどを搭載する端末が増え、スマートフォンが、また一歩デジタルデジタルカメラに迫った。高倍率ズームはペリスコープ構造のモジュールを搭載したHuaweiのP30 Proや、OPPOの「Reno 10x Zoom」が技術をリード。デジタルズームと組み合わせることで、どちらも10倍程度まで被写体に寄ることができるようになった。


望遠カメラで最大50倍のズームを実現した「P30 Pro」

 チップセットのパワーを生かし、リアルタイムに近い機械学習の処理で写真のクオリティーを上げるコンピュテーショナル・フォトグラフィーも、ハイエンドモデルでトレンドになった。中でもGoogleの「Pixel 4」や「Pixel 4 XL」は、星空まで撮れる夜景モードや、8倍まで迫れるズームで、その実力を見せつけた。機械学習は他社も取り入れており、iPhone 11シリーズの「ナイトモード」もその1つ。特にハイエンドモデルでは、低照度時のクオリティーが大きく上っている。


Googleが力を入れているのが、コンピュテーショナル・フォトグラフィー。AIの力でHDRやズーム、夜間撮影などを大幅に強化している。写真は「Pixel 4」

 フォルダブルやスマートフォンらしさを生かしたカメラで存在感を示すことができたハイエンドモデルだが、分離プランの拡大に伴い、高価格帯モデルの売れ行きには陰りも見え始めている。技術の粋を尽くしたハイエンドモデルと、コストパフォーマンスのよさを競うミドルレンジの二極化は、2020年にますます進むことになりそうだ。

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