「Snapdragon 888」でユーザーはどんな恩恵を受けるのか? 進化の中身を徹底解説する:Qualcomm Snapdragon Tech Summit Digital 2020(2/3 ページ)
Qualcommが新たに発表した「Snapdragon 888」は、865から25~35%程度の性能向上が図られている。従来の2チップソリューションから1チップソリューションへと変更されたことで、デバイス省電力や設計面で優位になった。12月2日(米国時間)に開催したイベントでは、カメラやゲームなど、具体的なシーンでユーザーがどんな恩恵を受けるかの説明に時間を割いた。
複眼カメラのレンズごとにISPユニットを割り当て
だが、これら2つより注目すべきは、前述のようにスマートフォンでの主要用途に特化させた部分だろう。イメージ処理を行うSpectra 580 CV-ISPでは3つのISPユニットを備え、前モデル比35%の性能向上を図っている。具体的にどういったことが可能かといえば、高品質な写真や動画撮影が可能になるだけでなく、例えば3つの4K HDR動画の同時撮影が可能になる。
昨今、3つ以上のカメラレンズを備えるハイエンドスマートフォンも珍しくないが、レンズごとにISPユニットを割り当てることで映像の同時処理が可能になる。スムーズなズーム処理はもちろん、露出などを変更した複数の映像を組み合わせて処理する際などに有効だ。半導体の世界では、微細化によってトランジスタを新たに実装できるようになった分は、必要に応じて各ユニットに面積を割り当てているが、このような形でISP増加の方向にかじを切ったのは、スマートフォンでカメラ機能が重視されるようになったからこそだといえる。
スマートフォンが備えるカメラのズーム動作は、デジタルによる疑似処理となっているため、倍率に応じてレンズ切り替えが発生して一瞬動作が止まることがある(特にウルトラワイドに切り替わったとき)。撮影時は3つのISPが常に待機状態にあるため、このようなシチュエーションでもスムーズなズーム処理が可能になる
映像処理をAIで補完、高度な編集が容易に
処理能力の高いプロセッサを内蔵するスマートフォンにおいてComputational Photographyはごく当たり前のものとなりつつあり、最新のスマートフォンのカメラ機能でこれをサポートしていないケースの方がもはや珍しいだろう。
前述のSpectra 580でISPユニット増設によるSnapdragonの入出力機構が強化されたとすれば、そこで生まれた大量のデータを内部的に効率よく処理するのがAIエンジンの役割となる。Snapdragon 888におけるAIエンジンは機能強化されたDSPのHexagon 780を中心に、KryoやAdreno、そしてSensing Hubを組み合わせる形で実装されている。
単純にスマートフォンにおける「AI」や「Machine Learning」と聞くと、普段の生活でどう役に立っているのか分かりにくいが、例えば、これまで音声入力したデータをサーバ経由で解析していたものが、手元の端末で完結する――といった例だと分かりやすい。オフライン環境でも音声認識機能が使えるし、何よりレスポンスが圧倒的に早くなる。
これを映像に当てはめれば、撮影した画像を最適な形で自動フィルタリングして補正をかけたり、あるいは露出を上げつつノイズを大幅に低減することで暗所での美麗な映像の撮影を可能にしたりと、本格的なカメラで撮影して現像処理をしなくても、誰でも簡単に同じ条件下でベストと呼べる撮影が可能になる。筆者の個人的意見だが、近年発達したHDRは特にこの仕組みの恩恵を大きく受けており、従来は難易度の高かった逆光や明暗が激しい環境でも、ワンショットでほぼ意図通りの撮影が可能になっている。
このように、AIは特に撮影後により高品質な編集処理を可能にするといえるが、Qualcommによれば、Snapdragon 888ではAIとISPを連動させることで、オートフォーカスや露出の自動補正といった撮影時の機能強化も期待できる。また後工程においても、Morphoの「Semantic Segmentation(意味付けによる分類)」によるAI分類機能を使うことで、撮影映像を要素ごとに分類し、自動的に最適なフィルタリングが行えるようになっている。
Snapdragon 865が発表されたSnapdragon Tech Summit 2019でもデモが紹介されたが、AI性能が向上しているということは、それだけ高画質の動画に対してリアルタイムかつSemantic Filteringを適用できることを意味する。つまり、10万円程度のスマートフォンさえ1台あれば、特に高度な技術や高価な機材、ソフトウェアなしで誰でも手軽に高品質な記録映像が撮れるというわけだ。
もう1つ、QualcommがAI機能の一部として紹介しているのが「Sensing Hub」だ。この超低消費電力で動作する機能ユニットは、各種センサーや通信を経て得られるストリームデータを中継し、他の(消費電力の大きい)処理ユニットに受け渡すまでもない軽い処理をその場で処理する。
同社はSnapdragonで「Always-on」のコンセプトをうたっているが、Sensing Hubはその意味で中核をなす存在といえる。第2世代のSensing HubではAI機能を特に強化しており、同社によれば、それまでHexagonに渡っていたデータの8割ほどをSensing Hub上で処理可能という。
また、開発者がSensing Hubの機能を利用しやすいよう、TensorFlow Microのフレームワークが提供されている。全体として、26TOPSという前モデル比で70%以上のAI処理能力を実現しつつ、Always-onによる低消費電力での長時間動作も実現するという両面での機能強化が図られている。
関連記事
5G時代の本命プロセッサ「Snapdragon 888」が登場 865から何が進化した?
Qualcommがハイエンドプロセッサ「Snapdragon 888」を発表した。5Gモデムとして第3世代にあたるX60 Modem-RF Systemを採用し、省電力性能を改善。Snapdragon 888を搭載した第1号機として、Xiaomiが2021年初頭に「Mi11」を投入する。Snapdragon 865から見える、次世代スマートフォンの姿
Qualcommの新たなSnapdragonからは、5Gの普及を加速させる可能性を感じられる。端末上で高度な処理が可能になることで、翻訳やカメラなどの性能がさらに向上する。スマートフォンのPC化や、スマホを使ったデジタルIDの活用も進むだろう。“5Gの早期普及”を目指すQualcommの新Snapdragonとテクノロジー
米ハワイ州マウイ島で開催中の「Snapdragon Tech Summit」で、QualcommがSnapdragon新製品を発表。フラグシップの「865」だけでなく、5Gの早期普及を目指す「765G」も投入。4Gと5Gで同じ周波数を共有する技術「DSS(Dynamic Spectrum Sharing)」も紹介した。2020年にはミッドレンジの5Gスマホも登場? Qualcommが5Gの技術動向を説明
Qualcommは米サンディエゴにある同社の本社で「The Future of 5G Workshop」を開催。5Gの現状とユースケースを中心としたこれからの展望について説明した。カギを握るのがミリ波。同社はミリ波に対応したアンテナモジュールを開発し、スマホでミリ波を利用できる技術を確立した。5G初対応の「Snapdragon 855」発表、Qualcommは「ミリ波」対応の技術力をアピール
Qualcommがハワイで開催された「Snapdragon Tech Summit 2018」で、5Gに対応したプロセッサ「Snapdragon 855」を発表。第4世代のAIエンジンを搭載し、845との比較で3倍のパフォーマンスを実現するという。5Gで使われる「ミリ波」に対応するのもポイントだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.