Snapdragon 865から見える、次世代スマートフォンの姿:Qualcomm Snapdragon Tech Summit 2019(2/3 ページ)
Qualcommの新たなSnapdragonからは、5Gの普及を加速させる可能性を感じられる。端末上で高度な処理が可能になることで、翻訳やカメラなどの性能がさらに向上する。スマートフォンのPC化や、スマホを使ったデジタルIDの活用も進むだろう。
2億画素カメラの処理も可能になる
単純にスペックだけを並べられてもピンとこないが、新たなSnapdragonからは、スマートフォンの進化の方向性がおぼろげながら見えてくる。従来まで、音楽の曲名解析や入力音声のテキスト化と翻訳はクラウド処理の定番だった。デバイス上で変換処理をするにはデータが重すぎるうえ、翻訳やライブラリ参照に必要なメモリやストレージが足りなかったからだ。
ところがプロセッサの処理能力が向上し、低消費電力で必要なライブラリや処理をまわせるようになると、デバイス上で可能なことが増え、その変換精度も大きく向上した。最も貢献を受けたと思われるのが機械翻訳で、前述の音声テキスト変換と組み合わせることで、クラウド処理では通信のラグで難しいリアルタイム翻訳が可能になった。
処理負荷の低減も大きく、例えばQualcommが提供するNeural Processing SDK上でGoogle Neural Networks APIを動作させることにより、Google Assistantの消費電力が3割ほど低減できるという。これはユーザーアプリも同様で、これまでクラウド連携が前提だったようなサービスがある程度デバイス上で完結可能になる。
もっと分かりやすいのが画像処理かもしれない。近年、スマートフォンのカメラ技術は急速に発展が続いており、ハイエンド機でなくとも2眼以上のカメラが搭載されるのはごく普通のこととなっている。日本上陸が話題になったXiaomiの「Mi Note 10」では5つのカメラを搭載して1億画素での撮影が可能だが、これを実現するのも最新プロセッサや周辺機構、そしてソフトウェアの進化が大きい。Snapdragon 865では最大2億画素の処理が可能としているが、実際には8K動画でも3300万画素程度であり、数字的にはかなりオーバースペックだ。実用性はともかく、それだけ潜在能力があるということだろう。
先日日本登場でも話題になったXiaomi Mi Note 10の5つのカメラ。同デバイスが搭載するのはSnapdragon 730Gだが、このカメラの同時制御を可能にするのも最新プロセッサの貢献が大きい
スマートフォンのカメラの多眼化と高性能化は今後もとどまることを知らない。筆者の情報源によれば、2020年に登場するiPhoneはさらにカメラ単体の性能が強化されるという話を聞いており、他のメーカーも同様にカメラの強化を進めてくるだろう。結果として、複数のイメージセンサーから入力される情報を合わせて処理することが増え、扱う情報量も増える。
最新SnapdragonではHEIF拡張が行われているが、コンテナフォーマットの仕組みを活用し、単純な1枚絵やEXIFだけでなく、ポートレートやGoogleのDynamic Depth Formatのような深度情報を含む要素も合わせて1ファイルとして保存することで、フォーカス変更や切り抜きなど後処理などが容易になる。
AI処理の強化は一般のアプリにも広がっている。例えばMorpho(モルフォ)が提供するアプリでは、取り込んだ画像をリアルタイム解析し、それぞれの要素を分解して最適なフィルターを適用することで美麗な画像を抽出する。写真のような後処理であれば加工は容易だが、動画中継などリアルタイム性を必要とする仕組みではAI解析の効果は大きく、今後モバイル端末を使ったYouTubeを含む現場中継やアップロード用動画作成において多用されることになるはずだ。8K動画撮影と合わせ、専用機材がなくてもスマホで手軽に動画レポートやリアルタイム中継が行える仕組みが整いつつある。
スマートフォンのPC化が進む
もう1つの大きなトレンドが、モバイル端末のPC化だ。昨今、ゲーミング市場を中心にPCメーカー各社が盛り上がりを見せているが、製品単価が高く、動く金額の大きさから1つのカテゴリーとして認知されている。この波はモバイルにも波及しており、ゲーミングスマートフォンというジャンルまで誕生している。
顕著なのはその性能で、従来はデスクトップPCやノートPCと比較して数段劣るという印象だったスマートフォン上でのゲームだが、最近ではレンダリング性能も大きく向上し、PCに近い品質を実現しつつある。興味深い仕組みとしては、GPUドライバの個別アップデートがGoogle Play経由でも可能になり、従来のスマートフォンでは考えられなかった「スマートフォンのPC化」が進んでいるといえる。
ちまたではGoogleのストリーミングゲームプラットフォーム「Stadia」の有用性についての議論が持ち上がっているが、スマートフォン向けプロセッサの高機能化がモバイル端末をサーバ側で処理を行う「シンクライアント」ではなく、PCのような端末側で処理を行う「リッチクライアント」化を進めていると考えると面白い。
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