インタビュー

IIJが法人向け5Gサービスを開始した狙いは? IIJmioでの5Gはどうなる?MVNOに聞く(1/3 ページ)

MVNOの老舗といえるIIJが、法人向けのIIJモバイルに5Gのサービスを加えた。au回線を使う「タイプK」のみだが、料金も変わらず、5Gを利用できるようになる。11月2日には、SA(スタンドアロン)方式の5Gに対応したeSIMを開発。試験用の基地局やコアネットワークでの動作を確認している。

 大手キャリア3社がスタートした5Gだが、MVNOへの広がりは限定的だ。コンシューマー向けはもちろん、法人向けで5Gを提供している事業者は、まだ数えるほどしかない。現状で提供されている5Gが、LTEを必要とするNSA(ノンスタンドアロン)方式であることや、MNOとMVNOの接続に帯域幅で課金されることが、5Gの導入に消極的になる理由とみられる。

 そんな中、MVNOの老舗といえるIIJが、法人向けのIIJモバイルに5Gのサービスを加えた。au回線を使う「タイプK」のみだが、料金も変わらず、5Gを利用できるようになる。また、同社はローカル5Gの活用も見越しており、その準備を着々と進めている。11月2日には、SA(スタンドアロン)方式の5Gに対応したeSIMを開発。試験用の基地局やコアネットワークでの動作を確認している。

 IIJが、このタイミングで法人向けに5Gサービスの提供に踏み切った理由はどこにあるのか。MVNO事業部 副事業部長 安東宏二氏と、同部 技術開発部 MVNOサービス開発課長 小路麗生氏、同部 技術開発部 MVNO技術開発課 大内宗徳氏の3人に、その狙いを尋ねた。

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なぜKDDI回線から5Gサービスを導入したのか

―― まずは、IIJモバイルのタイプKに5Gを導入した狙いを教えてください。

小路氏 法人向けとして、5Gの回線品目を追加しました。“追加”と申し上げたのは、タイプKなりタイプDなりがある中で、それに追加した形になるからです。まったく別のプランや新しく5G専用プランを建て付けたのではなく、既存のLTEと同じように5Gが使えるものを作りました。キャリアの5GはまだNSAで、LTEを使えて、5Gのスポットに入ったら5Gが使えるような形だからです。


MVNO事業部 技術開発部 MVNOサービス開発課長の小路麗生氏(写真提供:IIJ)

 (5Gを導入した)タイプKの中にもいくつかの定額プランがあります。定額プランライトは、IIJmioのミニマムスタートプランに合わせて3GBで900円(税別、以下同)。標準の定額プランは、今だと月10GBになっていて、それを超えると256kbpsに絞られる仕組みです。あとはパケットシェアプランがありますが、これは、複数回線で共通のデータ量を使って通信するというものです。こういったもので、そのまま5Gを使えるようになります。価格もLTE用プランとまったく同じで、5Gだから高い、安いというのはありません。

 タイプKで始めた経緯ですが、これは単純で、ドコモ回線は始めてから10年以上たっているため、対応しなければならないプランの数が非常に多かった。改めてサービスを建てつけるのではなく、既存のサービスにアドオンするという方針を決めたので、先にプラン数の少ないタイプKからやろうとなりました。少々言いづらいことですが、ドコモさんの方がシステムが複雑で、サービスリリースまでの時間を短くするという判断もあったため、最終的にKDDI回線が先になっています。

―― 実際、どの程度、5G契約をするユーザーがいるのでしょうか。

小路氏 正直なところ、利用者はまだほとんどいません。5Gのエリアがまだほとんど広がっていないのはご存じの通りなので……。特定のエリアで実際の5Gはどんなものなのかを試してみたいというお客さまがいれば、ご提供はします。最初のステップということで、まずはタイプKを追加した形になります。

 SAがどのタイミングで利用できるかは分かりませんが、そのときには、新しいプランを作ることになると思います。将来を踏まえての、最初のステップだとご理解ください。

未来への投資と考えて追加料金は取らず

―― 5Gを追加すると、そのぶんキャリアに対しての追加コストが発生すると思いますが、同額にしたのはなでしょうか。

大内氏 キャリアから5Gの提供を受けるにあたり、追加費用が発生する部分は確かにあります。しかしながら、それによって料金を変えてしまうと、お客さまに還元できる価値が上がっているのかどうかがポイントになってきます。既存のサービスの延長というところからのステップなので、未来への投資というか、踏まなければいけないステップの1つとして、既存のプランのまま提供しています。


IIJモバイルサービス/タイプKのプラン内容。4Gと5Gで価格差はない

―― ということは、無理に現時点で5G化するメリットはないとも言えそうですが……(笑)。5G専用に帯域を用意しているというわけでもないんですよね。

小路氏 ないです(笑)。いわゆるキャリアとの接続ポイントは、LTEと5Gで分けていません。サービスを考える中で、分かるか分けないかの議論はありましたが、分けてしまうと5G専用で帯域を用意しなければならなくなります。5Gのスピードを満たすだけの帯域を用意しようとすると、採算が合わないため、今の形で落ち着いています。もちろん、端末によっては若干スピードが上がることはありますが、キャリアの接続で「何Mbpsでいくら」からは離れられていないため、今のところは、何が来ても同じ土管に流すため、そこでスピードの上限が決まってしまいます。MVNOとして、つらいところです。

―― 高速通信は確かにそうですが、低遅延のところも生かせませんか。

大内氏 確かに遅延は若干ですが短くなります。ただ、NSAの場合、EN-DCと呼ばれる仕組みがあり、LTEと5Gを同時に使って速度を上げているため、LTE側に引きずられてしまい、遅延が落ちてしまう問題があることが分かってきています。やはり、SA時代にならないと、本当の意味での低遅延を有効活用することはできません。NSAは、あくまで速度を追求するところに主眼が置かれています。

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