6G時代の通信に ソフトバンクとニコンが「トラッキング光無線通信技術」の実証に成功(1/2 ページ)
ソフトバンクとニコンは、光無線通信の実用化に向けて2台の通信機を双方向で追尾し続ける「トラッキング光無線通信技術」の実証に成功した。光無線通信の特徴は、電波とは異なり干渉せず、ノイズも発生しない。トラッキング光無線通信技術は、光無線通信の弱点である直進性の強さをカバーするものだ。
ソフトバンクとニコンは3月18日、光無線通信の実用化に向けて2台の通信機を双方向で追尾し続ける「トラッキング光無線通信技術」の実証に成功したと発表した。AI技術と画像処理技術、精密制御技術を活用することで、直進する光軸と常に正対するように通信機を制御することが可能になった。今後両社は、光無線通信の実用化に向けた検証をさらに続けていく考えだ。
光無線通信は干渉せず、ノイズも発生しない
光無線通信は、赤外線よりも波長の短い、いわゆる「光」を使ってデータをワイヤレスで送受信する技術。これまでの無線通信では、ラジオ無線などの短波(HF)、アマチュア無線などの超短波(VHF)、そして携帯電話でおなじみの極超短波(UHF)などが使われてきた。UHF帯では現在、4Gの携帯通信でも使われており、さらにセンチ波(SHF)、ミリ波が5Gで利用されている。
特に携帯通信では、高速大容量・低遅延・多数接続が求められるようになり、より波長の短い周波数帯が使われてきている。5Gの次の世代である6Gではサブミリ波(EHF)が期待されている。ここまでは電波だが、さらに光の領域となる赤外線(IR)も6Gでの利用が想定されている。
「電波による無線通信は、周波数による限界が来る」と話すのはソフトバンクのIT-OTイノベーション本部本部長の丹波廣寅氏。光は電波とは異なる性質を持ち、これを無線通信に使うと、「電波とは全く違う世界がやってくる」と丹波氏は言う。
そうした光無線通信の特徴は、電波とは異なり干渉せず、ノイズも発生しない。「電波は電気的にはコピーできるが、光はセキュア」(丹波氏)というように、安全性の高い通信が実現できる。丹波氏は、電波と光でレイヤーを重ねることで、干渉をせずに大容量の高速通信が、しかもセキュアに構築できるとして、「電波と光がタッグを組むことが重要」と指摘する。
移動する送受信機と光無線通信を継続させる技術を開発
こうした光無線通信の特徴に対して、自動車の自動運転、車車間通信、ドローン、水中といった利用用途が期待されているが、光は直進性が強く、光の受発信機同士がきっちりと正対している必要がある。固定された環境ではそれでもいいが、自動車やドローンのように動き回る移動体に光軸を合わせ続けることは人力では不可能で、ソフトバンクでは自動でトラッキングする技術に着目。開発を続けてきた。
AIと画像認識技術にジンバルを組み合わせることで、移動する送受信機同士が常に正対するように動いて光無線通信を継続させるというもので、2019年に最初の原理実証を成功させている。
ニコンの「光利用技術」と「精密技術」を活用
これをさらに深化させるために手を組んだのがニコンだ。ニコンはカメラなどの光学系が有名だが、半導体製造などで使われる露光装置、計測器など、さまざまな「光利用技術」と「精密技術」を抱えている。こうした資産を活用して、ソフトバンクとともに開発したのが今回のトラッキング光無線通信技術だ。
ニコンの産業用ロボットで非接触測定機のLaser Radar測定機をベースにした機器を2台用意。それぞれ頭部に光無線通信機を設置して、その周囲に画像認識でトラッキングするためのターゲットとなる独特の形状のプレートを追加した。その下に設置したカメラがターゲットをトラッキングして、それぞれのプレート(の中央にある通信機)が常に正対するようにロボットが動く、というものだ。
ターゲットが動いてもディープラーニングによって学習したAIが30fpsでターゲットを認識して常に外れないように自動でロボットを動かし、常に光軸を合わせるようにする。ターゲットのデザインや色にも工夫を重ね、認識率を向上させた。
今回使われた光無線通信機の仕様は限界距離100mだが、ニコンの実験ではその100mの距離で画像を認識して正対して通信が行えることを確認。今後は、1kmで1Gbpsという目標に向けて開発を続ける。
今回は実験のため既存のロボットをベースにしたため大型だが、小型化したジンバルに設置することで、より小型の光無線通信機の開発を目指す。ニコンの執行役員次世代プロジェクト本部長の柴崎祐一氏は、「ドローンへの搭載は十分可能」だという。
関連記事
ソフトバンクら、Beyond 5G/6Gに向けたテラヘルツ無線通信用の超小型アンテナを開発
ソフトバンクらは、6月18日にBeyond 5G/6G時代を見据えた300GHz帯テラヘルツ無線で動作する超小型アンテナの開発に成功したと発表。利得を約15dBi(シミュレーション値)に保ちつつ、サイズは1.36×1.36×1.72(開口面積:1.8平方ミリメートル)を実現している。「5Gの発展」と「6Gの世界」はどうなる? DOCOMO Open House 2020で語られたこと
「DOCOMO Open House 2020」では、5Gの進化と、次世代の6Gに関するパネルディスカッションを実施。ドコモ、Ericsson Research、Nokia、エヌビディアのキーマンが参加。6Gの定義やキーテクノロジー、スケジュールなどについて語った。ドコモが「6G」に向けたホワイトペーパー公開 2030年頃のサービス提供開始を目指す
NTTドコモが2030年頃のサービス提供開始を目指す「第6世代移動通信システム(6G)」に関するホワイトペーパーを公開。5Gを高度化した「5G evolution」や、6Gで期待できるユースケース、目標性能、技術要素などの技術コンセプトをまとめた。6G時代は鏡がスマホ代わりに? 京セラが考える、シニア向けデバイスの未来
京セラは携帯通信事業30周年を記念して、5つのテーマに渡って全5回で通信事業に関する記者説明会を開催する。第1回目は11月25日にオンラインで開催し、シニア向け事業について説明した。大きな鏡(ディスプレイ)を使ってコミュニケーションする通信機器のコンセプトも紹介した。5Gのエリア拡大とともに広がるミッドレンジスマホ ソフトバンクとauの戦略を解説
5Gのエリアが広がるとともに、端末のバリエーションも広がり始めている。当初はフラグシップモデルが中心だったが、2020年の秋冬ごろから徐々に5万円を下回るエントリーモデルが増えてきた。ソフトバンクとKDDIが、春商戦向けの安価な5Gスマートフォンを発表。両社の戦略を中心に解説する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.