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大手キャリア販売店における端末の“単品販売” 実態は?(2/2 ページ)

大手キャリアの端末は、回線契約とひも付けずに購入できる……はずが、それが断られるケースも少なくない。一体なぜなのだろうか。

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なぜ「単品販売の拒否」は起こるのか?

 現在の法令に基づくと、携帯電話キャリアとその販売代理店は原則として端末の単品販売を断れない。先述の通り、断ってしまうと端末購入サポートプログラムを提供する前提条件を満たせなくなってしまうからだ。

 それにも関わらず、単品販売を拒否する事例はなぜ発生してしまうのか。覆面調査とは別に、同省は2021年3月、代理店を運営する法人を対象とする聞き取り調査(匿名)と、キャリアショップに勤務する店員を対象とするアンケート調査(匿名:属性による抽出あり)を行った。両調査の回答に、単品販売を断る空気が生まれる“ヒント”が隠されている。

キャリアからの端末の「卸値」に問題がある

 販売代理店は、キャリア(または上位の販売代理店)から端末を仕入れて販売する。

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 一般的に、販売店が一定の利潤を得られるように、卸値は販売価格よりも安く設定されることが多い。しかし、代理店の運営法人からの聞き取りによると、ドコモ、au、ソフトバンクは卸値を自社の直販(オンラインショップ)価格と同一に設定しているという。つまり、単に端末を売っただけでは全く利益がない状態なのだ。

 回線とひも付けて販売する場合は、新規契約、MNP、機種変更など手続きを受け付けたことによる「手数料」が得られる。そのため、キャリア直販と同じ価格で売っても、一応の収益は立つ。しかし、端末単品で販売する場合、購入者がクレジットカードで決済をすると、その手数料で“赤字”になってしまうのだ。端末の単品販売にも手数料を設定する対策を講じたキャリアもあるが、全てではない。

 端末販売による利益を得られないことは、携帯電話販売における「頭金」の設定にもつながっている(参考記事)。これは代理店が少しでも収益を増やす為の自衛措置とも取れるのだが、当のキャリアが「頭金」を極力設定しないように求めているという。「頭金」を設定している代理店に対して不利な取り扱いをしているキャリアもあるという。

 携帯電話の販売を取り巻く市場環境を考えると、現状では「別の事業(業態)で不採算事業(商品)の収益を確保(赤字を穴埋め)する」という考え方を取りづらい代理店も少なくない。赤字を丸抱えする羽目にもなりかねない端末の単品販売に応じたくないと考える代理店がいても、おかしくはない状況なのだ。


大手キャリアの端末の卸値は、自社のオンラインショップと同額に設定されていることが多い。端末を売っただけでは収益につながらないどころか、場合によっては赤字を生み出してしまう(総務省資料より:PDF形式)

手数料や取り扱い商材に関する問題も

 販売代理店は、手続きの内容に応じてキャリアから「手数料」が支給される。また、契約(販売)獲得や満足度調査の結果に応じて、手数料率のアップや追加の「販売奨励金」を得られる場合もある。これらの手数料や販売奨励金は、代理店の収益の大きな部分を占める。

 各キャリアの定めた基準を高いレベルで満たせば、支給される手数料や販売奨励金で十分に店舗を運営できる反面、上位ランクに入れないと採算を取りづらくなり、キャリアによっては低評価が続くと「強制閉店」(運営代理店の変更または完全撤退)を強いられるというケースもある。大容量(≒単価の高い)プランの獲得率を手数料算定における優遇対象に含めるキャリアもあるという。

 キャリアによる手数料や販売奨励金の“設定”が、不適切な販売を招く原因の1つになっていることが伺える。


キャリアが代理店に支払う手数料や販売奨励金の設定が、店舗における不適切な販売方法を招いているのではないかという指摘もある(総務省資料より:PDF形式)

 その他、代理店の運営法人からは、独自の収益源を用意することに対する厳しい制限を指摘する声や、推奨をする商材の多様化や、「出張販売」(※3)による代理店や店員に対する負担を懸念する声も挙げられた。

(※3)ショッピングモールなどの一角を借りて、店舗外で通信回線や端末を販売すること


独自商材の取り扱い制限や、キャリアからの指示が負担になっている様子も伺える(総務省資料より:PDF形式)

キャリアの課す「ノルマ」が店員の負担に

 キャリアショップに勤務するスタッフ(離職から1年以内の元スタッフを含む)に対する調査は、412人を対象に行われた。

 詳しい調査結果は会議の構成員とヒアリング対象者限りの開示となるが、概要を見る限りはキャリアが設定した営業目標が、強引な勧誘につながってしまった事例もあるようだ。


アンケート調査を行った(元)キャリアショップの店員の属性。店頭における管理職も一定の割合で含まれている(総務省資料より:PDF形式)

アンケート結果の詳細は構成員とヒアリング対象事業者にのみ開示された(総務省資料より:PDF形式)

携帯電話販売店のあり方の議論は避けられない

 ITmedia Mobileの読者の中には「全てオンラインで済ませればいい」という人もいるだろう。しかし、現実問題としてオンラインでは手続きをこなせないユーザーも存在する。また、全ての手続きをオンラインで済ませられる人であっても、スマートフォンの“実機”の持ち心地や実際の動作をオンラインで試すことはできない。今後も、携帯電話販売店は一定の役割を果たし続けるだろう。

 しかし、ここ数年は携帯電話販売店の経営環境は厳しさを増している。「持続可能な店舗運営」を目指すにはどうすればいいのか――議論は待ったなしの状況だ。関係各位が知恵を出し合って、議論が前向きに進むことを期待したい。

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