契約者の「個人情報」 ショップ店員はどこまで見られる?:元ベテラン店員が教える「そこんとこ」(3/3 ページ)
個人情報の保護が叫ばれる昨今、携帯電話はある意味で「個人情報の塊」です。その契約手続き時において、携帯電話販売店のスタッフはどこまで個人情報を参照できるのでしょうか?
控えを“自衛”のために印刷して残す店舗もある
システムを改修したりルールを改訂したりすることで、キャリアはユーザーの個人情報を極力店舗に残さないように努めてきました。昔は頻繁だったFAXのやりとりも、今ではほとんどなくなりました(ゼロではありませんが……)。
今どきの携帯電話販売店では、原則として申込書の店舗控えが手元に残りません。キャリアによっては、完了した手続きの内容を契約手続き用端末で再確認できないように“徹底”しています。
しかし、申し込み内容を巡って、手続き者が後からクレームを申告してくることがあります。その人が申込書の控えを持参しなかった場合、手元に店舗控えがないとなると、対応に余計な手間を掛けなければならないこともあります。
そこで、手続き後のクレームに備えて手続き完了前に申込書の店舗控えを印刷しておいて、一定期間保管する販売店もあります。こうすることにより、手続き者が申込書を持っていなくても、迅速に対応を行えるというわけです。
複写式の申込書時代と同じく、販売店で印刷できる店舗控えは、基本的に一部の情報の表示が伏せられます。しかし、一部キャリアの控えには、センシティブな契約情報も記載される場合があります。これを悪用すると、契約者本人に“なりすます”こともできてしまいます。
手続き者の個人情報はしっかりと守られるべきです。しかし、店舗で発生したトラブルを解決するためには控えが欠かせないという販売店側の心理も、痛いほどによく分かります。うまくバランスを取り、期間を定めて必要最低限の情報に絞った控えを確認できるようになるといいと思うのですが……。
口座振替の申し込みも要注意
先述の通り、申込書は極力店舗に残さないようになっているのですが、どうしても一定期間残ってしまう書類もあります。「口座振替申込(依頼)書」です。
ほとんどのキャリアの顧客管理システムでは「オンライン口座振替サービス」に対応しています。契約手続き時に携帯電話料金の口座振替も同時に申し込む場合、引き落としに使う口座のキャッシュカードと暗証番号があれば、その場で手続きが完了します。書類のやりとりも不要です。
しかし、以下のいずれかのケースに当てはまる場合、オンライン口座振替サービスを利用できないため、口座振替申込書が必要となります。
- オンライン口座振替サービスに対応しない金融機関の預貯金口座からの振替を希望する場合
- キャッシュカードを発行していない預貯金口座からの振替を希望する場合
- キャッシュカードに磁気ストライプがない場合
- キャッシュカードの磁気ストライプによる取り引きを停止している場合
口座振替申込書も以前は複写式が主流でしたが、現在は複写式ではないものが増えています。ただし、新規契約や機種変更の申込書とは異なり、原本(※3)は販売店が預り、キャリアの事務センターを経由して金融機関に提出されます。
(※3)複写式の口座振替申込書の場合は「お客さま控え」以外のページ
口座振替申込書にはユーザーの振替口座の情報が書かれており、届出印(またはサイン)もあります。携帯電話番号も記載されていることもあります。悪意のあるスタッフが悪用できてしまうリスクは排除できません。
どうしても気になるという場合は、オンライン口座振替サービスに対応する金融機関の預貯金口座を使うか、クレジットカード払いを選択することをお勧めします。
店頭でキャッシュカードを使って口座振替を申し込みめる金融機関は、キャリアによって異なります。対応している金融機関でも、先に触れたパターンに当てはまる場合は申し込めない場合があります(画像はNTTドコモの場合)
「性善説」では個人情報を守り切れない時代
情報化社会の現代において、個々人が持っている個人情報にはさまざまな「入り口」があります。少しでも入り口を強固にすべく「多要素認証」を取り入れるWebサービスも増えました。
多要素認証の「要素」となりうる情報としては、「生年月日」「住所」「生年月日」も挙げられます。これらはまさしく、携帯電話販売店のスタッフが取り扱う情報です。要するに、携帯電話販売店にユーザーの情報を残すと、それを不正入手した“誰か”が、情報を足がかりに別のサービスにログインして、本人になりすまして悪用≫する可能性もあります。
携帯電話販売店で働いていた頃、筆者は「個人情報に関する事故は絶対に起こさない」と心に誓っていました。おかげさまで、勤務していた店舗では、個人情報にまつわる事故を1件も起こさずにきました。「お客さまに安心して契約や手続きをしてほしい」という思いは、多くの販売店やスタッフも同じだと考えています。
しかし、繰り返しですが、個人情報に関する事故は現実に起こっています。スタッフの良心に頼る「性善説」だけでは対策しきれないことも事実です。だからこそ、キャリアは「端末の操作を監視する」「申込書の店舗控えを後から確認することを制限する」といった対策を取るようになったのです。
冒頭で触れたソフトバンクの販売代理店における事例は極端ではありますが、携帯電話販売店における個人情報事故の多くはキャリアの管理範囲外で販売店(あるいはスタッフ)が独自に“収集”した情報が原因です。「『性悪説』に立て」とはいいませんが、携帯電話販売店側も、個人情報の取り扱いについて真剣に考える必要がありそうです。
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