武田総務相「今春値下げで年間4300億円の国民負担軽減につながった」――KDDIとソフトバンクは年間6~700億円の収益減。計算は合うのか?:石川温のスマホ業界新聞
武田良太総務大臣が「携帯電話の料金値下げで年間4300億円の国民負担軽減につながった」という旨の発言をした。しかし、携帯キャリアの減収予測を積み重ねても、そこまでの額にならない。一体、何を根拠にしたのだろうか?
総務省は6月29日、主要な携帯電話事業者10社が今春、投入した新料金プランの契約者数が5月末時点で1570万件となり、年間4300億円の国民負担の軽減につながったという試算を発表した。
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この記事は、毎週土曜日に配信されているメールマガジン「石川温のスマホ業界新聞」から、一部を転載したものです。今回の記事は2021年7月3日に配信されたものです。メールマガジン購読(税込み月額550円)の申し込みはこちらから。
同省が実施したアンケートでは「今後、乗り換えたい」と回答した人が12.8%もおり、武田総務相は「乗り換えが進めば国民負担軽減の総額は1兆円規模になる」とした。
この報道を聞いたとき、正直言って、耳を疑った。総務相は「相当、数字を盛っているのではないか」と疑念を抱きたくなったほどだ。
「国民の負担が軽減された」ということは、つまり逆をいえば「キャリアの収益が落ちた」ということになる。しかし、KDDI、ソフトバンクは今回の値下げで年間で600~700億円程度のマイナス影響が出ると明らかにしている。NTTドコモも同規模だろう。つまり、3キャリアでの値下げ要因によるマイナスは2000億円程度しかないのだ。
新料金プランを契約した人が1570万件とあるが、NTTドコモ「ahamo」は100万契約を超えたところだ。au「povo」に関しても「100万件が見える」程度でしかなく、1570万件にはほど遠い。
ただ、1570万件には楽天モバイルの新料金プランも含まれており、それを考慮すると、ここで410万件以上の数字を稼げる。また、NTTドコモ「5Gギガホ プレミア」などの既存の料金プランを改定したものも含まれており、3キャリアの既存料金プランから更新された料金プランへの切り替えを含めれば1570万件に到達するのかもしれない。
ただ、既存プランから新プランへの移行は、さほど値下げはされておらず、国民負担軽減への影響は軽微だ。
また、楽天モバイルの410万件に関しても、そもそも無料で提供されていたプランが4月以降、有料になったことを考えると、むしろ負担は増加しないとおかしなことになる。
MVNOの新料金プランも始まったばかりであり、しかもMVNOを契約しているユーザーが新料金プランに乗り換えたところで、国民負担軽減への影響はわずかしかない。
武田総務相が「国民負担軽減の総額が1兆円の規模になる」と胸を張るが、そもそもアンケートを元に「乗り換えたい」という人がすべて乗り換えたときの仮定の話に過ぎない。
日本のほとんどのユーザーがキャリアを乗り換えないという保守的な国民性であることは競争政策を進めている総務省が一番ご存じのはずだが、なぜこのタイミングには「希望する国民がすべて乗り換える」という常識外れで暢気な予想をベースに1兆円なんて数字を掲げてしまうのか、理解に苦しむ。
今回の試算、総務省のウェブページには公開されておらず、記者クラブだけに資料が配付された模様だ。突っ込みどころが満載なので、総務省の担当者に取材のお願いメールを出したのだが、いまのところ返答はなし。取材が入り次第、詳細を改めてお伝えしたいと思う。
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