Beyond 5G/6Gに向けて――KDDI総合研究所が「ユーザーニーズに応える無線ネットワーク展開技術」の実証実験に成功
KDDI総合研究所が、個々のユーザーに最適な無線通信環境の提供を実現するための実証実験に成功したことを明らかにした。基地局アンテナの低コストかつ迅速な展開と、ユーザーの通信品質要求に応える無線通信環境を両立できることが特徴だ。
KDDI総合研究所は10月7日に、個々のユーザーに最適な無線通信環境の提供を可能とする「次世代無線ネットワーク展開技術」の実証実験に成功したことを発表した。いわゆる「Beyond 5G」「6G(第6世代移動通信技術)」の実現に向けた取り組みで、コストを抑制しつつ通信品質を高められる手法として期待される。
光ファイバーを利用した「Cell-Free Massive MIMO」
5Gまでの移動通信システムは、基地局を中心にサービス提供可能なエリアが決まる「セルラーアーキテクチャー」を採用している。このため、隣接する基地局同士が干渉することによって通信品質が低下したり、電波が遮られることによって端末まで電波が届きにくくなったりすることがある。
これらの課題に対し、KDDI総合研究所は、多数の基地局アンテナを分散配置して連携させることで干渉や遮蔽の影響を抑える「Cell-Free massive MIMO技術」や、よる少ない光ファイバーの本数で効率よく基地局アンテナを収容できるインフラ構成手法を開発してきた。
実証実験では、Cell-Free massive MIMOのモバイルフロントホールに光ファイバー無線技術の「IFoF方式」を適用し、基地局アンテナ間の連携効果を検証した。具体的には、5G基地局シミュレーターと分散配置した複数の基地局アンテナ間を1本のマルチコア光ファイバーで接続し、基地局アンテナで送受信される無線信号をIFoF方式で伝送するモバイルフロントホールを介してミリ波帯(28GHz)の無線通信環境を構築した。
商用5G端末との通信試験を通じて分散配置したアンテナの連携により、以下の効果が得られることも確認したという。
- 遮蔽の影響を緩和し、安定したスループットが得られること
- 分散アンテナの配置を変えた場合でも良好な無線品質が得られること
同社によると、Cell-Free massive MIMO技術と、多数の基地局を少ない光ファイバーで効率よく収容できる光ファイバー無線技術を組み合わせた実証の成功は世界初とのことだ。実用化できれば、基地局アンテナの低コストかつ迅速な展開と、個々のユーザーが求める通信品質要求に応えられる無線通信環境の提供を両立できるようになる。
28GHz帯液晶メタサーフェス反射板
今回の実験とは別に、KDDI総合研究所はジャパンディスプレイ(JDI)と共同で「28GHz帯液晶メタサーフェス反射板」の開発に取り組んでおり、実験環境で電波の反射方向を任意な方向へ変えることに成功したという。
この反射板は、反射素子とグランド(地板)との間に液晶層を取り入れ、反射素子を電極として兼用。電圧によって電気特性(誘電率)を変更することで、電気的な電波の反射方向制御を実現している。
試作した方向可変型液晶メタサーフェス反射板の小形サンプルを用いて電波無響室で行った実証実験では、28GHz帯の電波を設定した反射方向へ変更できることを確認できたとのことだ。この成果を活用すればば、電波環境の変化によるカバレッジホールの位置の変化や、時間帯による利用者の分布変化にあわせた柔軟なカバレッジホール対策ができるようになるという。
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