ソニーグループが“個人向けローカル5G”に参入する狙い 通常の5Gサービスとは何が違う?:5Gビジネスの神髄に迫る(2/2 ページ)
ソニーグループが集合住宅向けにローカル5Gサービス「NURO Wireless 5G」を、2022年春に提供する。ソニーグループが強みを持つエンターテインメントを中心に据えたサービスを提供する狙いがあるという。エンタテインメントや映像機器などの強みを生かした法人向けサービスも視野に入れている。
“今までとは違うFWA”を戸建てに提供しない理由
NURO Wireless 5Gは、現時点ではあくまで集合住宅向けのサービスであり、戸建ての住宅では利用できない。「今までのFWAと違うというのは言い切れる」と渡辺氏は話しているだけに、戸建てに住んでいる人がその恩恵を受けられないのは残念なところだ。
渡辺氏によると、集合住宅にサービスを絞る主な理由の1つは、基地局設置の問題であるという。戸建てを対象にするとなると、建物ごとに基地局を設置するわけにはいかず、広域で住宅カバーできるよう基地局を設置していく必要が出てくるが、それには必要なチップなどの価格低廉が必要なのに加え、設置に当たって「どこにどう許諾を取ったらいいか、というルール整備がまだ整っていない」(渡辺氏)ことが問題になってくるという。
そしてもう1つの理由は、戸建ての場合光回線などが引きやすいので、遅延などの問題も起きにくい環境にあるためだという。集合住宅では光が引き込めなかったり、宅内配線がVDSLで速度が出なかったりして“ブロードバンド難民”になるケースが少なからずあることもあって、やはり集合住宅の方が提供優先度は高いと捉えているようだ。
渡辺氏はNURO Wireless 5Gがブロードバンド難民を意識して開発されたものではなく、「土管とは違うところを目指すのは変わらない」と話す。ただ発表後の反響が非常に大きかったことから、ブロードバンド難民の要望に応えることは重視していくとの考えを示している。
なお提供可能エリアは、現在のところ10都道府県の一部に限られているが、NUROのエリアと必ずしも一致するわけではないとのこと。「いち通信事業者としてのNUROの回線を借りている部分があるが、必ずしもNUROのエリアに限定されるものではない」と渡辺氏は話しており、今後NUROのエリア外でも展開していく可能性もあるようだ。
法人向けも視野に入れるが、工場向けはやらず
ソニーワイヤレスコミュニケーションズはNURO Wireless 5Gを発表した際、今後法人向けに事業展開していくことにも言及している。こちらも現時点で具体的なソリューションなどを打ち出しているわけではないが、企業向けのローカル5Gは既に多くの企業が取り組んでいるだけに、後発となる同社がどのような取り組みをしようとしているのかは気になる。
渡辺氏によると、「ソニーグループのアセットとローカル5Gでソリューションを作り、プラットフォームを提供する」ことを考えているという。ソニーグループはエンタテインメントや映像機器などに強みを持つことから、そうしたグループ内の強みを生かしたソリューションを提供していく方針のようだ。
具体的には同社がインフラ構築のみを担うケースもあれば、同社が前面に立ってソリューション開発を進めるケースも考えられるとのこと。一方で、ローカル5Gで主流の工場向けソリューションは「やるつもりはない」と渡辺氏は断言。あくまでソニーグループが得意とする領域に特化したソリューションを展開していく考えのようだ。
取材を終えて:具体的なサービス内容に期待も、本命は法人向けか
ローカル5GをFWAとして活用する動きは、ここ最近、他の企業からも出てきており、携帯各社の5Gを活用したFWAサービスとの競争が注目されている。だがNURO Wireless 5Gは、あくまでコンテンツの体験価値を高めることに重心を置いてローカル5Gを活用していく方針のようだ。サービス内容が明らかになっていない現時点では回答が得られない部分も多かっただけに、具体的なサービス内容が発表されたときにどのようなサプライズがもたらされるのかが注目される。
ただ、インフラ整備にかかる手間を考慮すると、NURO Wireless 5Gを全国規模で展開するのはハードルが高く、そうなるとローカル5Gビジネスの本命はやはり法人向けになるのではないかと筆者は見ている。コンシューマー向けサービスでローカル5Gの知見を積み、その上でソニーグループの強みを生かした映像・放送関連の5Gソリューション開発をどのように進めるかが、同社の事業を見据える上で重要なポイントになってくるのではないだろうか。
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