非常時の事業者間ローミングはどこまで有効なのか? 検討会で浮き彫りになった課題:石野純也のMobile Eye(3/3 ページ)
7月に発生したKDDIの大規模通信障害を受け、総務省で事業者間ローミングの検討が始まった。ネットワークを運用するMNO(通信キャリア)に関しては4社とも賛同の意向を示している。一方で、現時点で有力視されているローミングの方式だと、検討会の発端になったコアネットワークで起こる大規模な通信障害には対処できない。
SIMなし発信にいたずら抑止策はないのか? eSIM活用にも課題が
検討会の構成員からも、技術的にSIMなし発信時のいたずらを防ぐことができないのか? といった質問が出ていた。一例を挙げると、フィンランドでは、悪用やいたずらを抑止するため、SIMなしで緊急通報をする際には、IMEIと呼ばれる端末の識別番号を送付しているという。端末の識別番号が分かったところで、必ずしも所有者を特定できるとは限らないが、抑止力にはなる可能性がある。現状の緊急通報と同様、位置情報を送るといった手も考えられる。
また、SIMなし発信は常時運用することが前提になっていたが、大規模障害時などの緊急時に限定して開放すれば、いたずら電話などはある程度防げるのではないか。基地局まで含めたネットワーク全体の設定をタイムリーに変えていかなければならず、技術的なハードルは高そうだが、大規模な通信障害までカバーできる方式のため、検討してみる価値はありそうだ。
もう1つの方法としてキャリア側からは、eSIMを使ったバックアップ回線を常備しておく案も提案されている。具体的には、ユーザーが契約しているキャリア以外の回線をeSIMで端末にセットしておき、緊急時のみ有効にするというものだ。ソフトバンクの代表取締役社長兼CEOの宮川潤一氏は、8月の決算説明会で「他キャリアと議論しているわけではないが」と前置きしつつ、「各キャリアが他のMNOのMVNOになる構造で、緊急事態に切り替え可能なeSIMを用意しておく」案を語っていた。
総務省の検討会でも、ソフトバンクはデュアルeSIMを活用した緊急時の通信手段を提案している。トラフィックへの影響が懸念されるが、「電話とWebが使えて何が起きているかが分かり、LINEで最低限の通信手段を確保する」ための回線で、速度は絞ることを想定しているという。eSIMの活用に関しては、ソフトバンクだけでなく、ドコモも幅広い手段の1つとして挙げられていた。eSIM対応、それもデュアルeSIMの端末はまだiPhone 13シリーズ以降に限られている点は課題だが、緊急時の通信手段としては悪くない選択肢といえる。
ただ、IIJのMVNO事業部 ビジネス開発部 担当部長の佐々木太志氏は、同検討会で、「MVNOがデータeSIMを提供するなどして、自らの創意工夫で大規模障害時にも利用者に利便性を提供する。こういったビジネスは既に行われていて、多くの利用者にご利用いただいている」とくぎを刺す。実際、KDDIの通信障害時には、IIJmioがフルMVNOとして提供しているeSIMの契約者数が通常時の約8倍にも伸びたという。MNOでも、povo2.0のようなバックアップになりうるサービスはすでに提供されている。既存のサービスを改めて周知するなどして、コストを抑えながら個人でネットワークを冗長化する考え方を広げていくことも必要になりそうだ。
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