楽天モバイルがプラチナバンド移行期間でやや譲歩――3キャリアから奪うより「狭帯域割り当て」が現実解か:石川温のスマホ業界新聞
総務省において、3Gで利用している周波数帯域をどう扱うかを検討する会合が開かれている。従来、既存キャリアが利用しているプラチナバンド(800/900MHz帯)をなるべく早期に自社に割り当てることを強く要望している楽天モバイルの態度が、ここにきて軟化の兆しが見えてきた。
9月26日、総務省にて「携帯電話用周波数の再割当てに係る円滑な移行に関するタスクフォース(第12回)」が開催された。
4Gでは1.7GHzしか持たない楽天モバイルに対して、プラチナバンドを割り当てる前提で行われているタスクフォースだが、これまで楽天モバイルは「1年以内に再割り当てできる」という主張を展開していた。
この記事について
この記事は、毎週土曜日に配信されているメールマガジン「石川温のスマホ業界新聞」から、一部を転載したものです。今回の記事は2022年10月1日に配信されたものです。メールマガジン購読(税込み月額550円)の申し込みはこちらから。
しかし、今回の会合では新免許人が開設計画(置局計画)を必要な範囲で開示。開示情報に基づき、影響が想定される基地局にフィルタを交換。10年をかけて順次、楽天モバイルが周波数を使えるようにできないかという移行イメージが語られた。
3キャリアとしては「移行にはフィルタ交換などで10年かかる」と主張してたため、楽天モバイルが譲歩案を出してきたというわけだ。
一方で興味深いのが、先日のタスクフォースで有識者から「そもそも15MHz幅もいるのか」という意見が出されたことだった。
その意見に対して、NTTドコモが新たな資料を出してきた。それによれば、15MHz幅では約5500万契約の収容が可能だという。NTTドコモでは「今回の検討において、当該周波数の利用目的、収容見込等を勘案し、当該周波数の有効活用に向けて適切な帯域幅を検討すべき」としている。
ちなみにNTTドコモの資料では、1.4HMz幅で510万、3MHz幅で1100万契約の収容が可能だとしている。つまり、現状の楽天モバイルのユーザー数であれば1.4MHz幅で足りることになってしまうし、今後、ユーザー数が倍増したとしても3MHz幅で充分ということになる。ちなみに通信速度は1.4MHz幅で下り12Mbps、3MHz幅で30Mbpsになるという。
楽天モバイルの主張は、15MHz幅が欲しく、3キャリアからそれぞれ5MHzずつ返してもらうことで、15MHz幅を実現したいとしている。しかし、それでは3キャリアそれぞれでフィルタ交換などの工事が必要となり、それぞれで1000億円規模の工事費がかかる恐れがある。
しかし、1.4MHz幅や3MHz幅であれば、どこか1つのキャリアだけが泣きを見れば済む話のようにみえてくる。いや、ひょっとすると、3キャリアからプラチナバンドを召し上げるのではなく、どこか別のところから確保するなんてことも可能だったりしないのではないだろうか。
今回の法改正やタスクフォースは「楽天モバイルがプラチナバンドをもらえる前提」で話が進んでいるが、そもそも競願にかけ、3キャリアと比較して、楽天モバイルが電波の有効利用で勝ると証明するのは至難の業なのではないだろうか。3キャリアは数千万規模のユーザーを抱え、電波を有効利用しまくっている。一方で楽天モバイルは500万ユーザーを超えたものの、ゼロ円廃止で契約者数の減少傾向にあったりする。
楽天モバイルにプラチナバンドを早期に渡す目的を達成したいのなら、狭帯域をなんとか絞り出すという方向性も模索した方が手っ取り早いのではないだろうか。
関連記事
楽天モバイル、9月4日の通信障害を「重大な事故」として総務省に報告
楽天モバイルは10月4日、9月4日午前11時20分頃から午後1時26分頃までにかけて起きた通信障害について、総務省に重大な事故報告(以下、報告書)を提出した。約130万回線に影響が及んだという。これを受けて同社は再発防止に全力をあげて取り組んでいくとしている。非常時の事業者間ローミングはどこまで有効なのか? 検討会で浮き彫りになった課題
7月に発生したKDDIの大規模通信障害を受け、総務省で事業者間ローミングの検討が始まった。ネットワークを運用するMNO(通信キャリア)に関しては4社とも賛同の意向を示している。一方で、現時点で有力視されているローミングの方式だと、検討会の発端になったコアネットワークで起こる大規模な通信障害には対処できない。総務省で携帯電話の「非常時ローミング」の議論が始まる 12月下旬に方向性を取りまとめへ
自然災害や設備故障による通信障害が相次いだことから、総務省において非常時の「事業者間ローミング」を検討する会合が始まった。今後12月下旬をめどに方向性のとりまとめをする予定となっており、初開催となる今回は携帯電話キャリア(MNO)からのヒアリングを実施した。寺田総務大臣、楽天モバイルの通信障害に「重大な事故」と言及 周知の遅れを指摘
寺田総務大臣が、9月6日に記者会見で楽天モバイルの通信障害について言及した。約2時間半にわたり携帯電話サービスが利用しづらい状況が発生し、利用者への周知の遅れから電気通信事業法上の重大な事故に該当するとした。プラチナバンド再割り当て議論は平行線のまま――楽天モバイル「1年以内、費用負担はしない」は通用するか
電波法の改正によって、既にモバイル通信(携帯電話)向けに免許を交付した周波数帯域を別の免許人に割り当て直すことが可能になった。そのことを受けて、総務省はサービス終了が間近な3G用の帯域を再割り当てするかどうかの議論を進めているのだが、新規事業者である楽天モバイルと、既存事業者3社の意見の乖離(かいり)が問題となっている。
関連リンク
© DWANGO Co., Ltd.