楽天モバイルの“単月黒字化”は可能なのか 反転攻勢に向けた2つの戦略と課題:石野純也のMobile Eye(2/3 ページ)
0円を廃止して純減に見舞われていた楽天モバイルが、ようやく純増基調を取り戻した。2月14日に開催された楽天グループの決算説明会で、その数値が明らかになった。残った全契約者が“課金ユーザー”に転じたことで、収入も急速に増加している。
月次黒字化に向けて急務になるコスト削減、オンラインシフトも
一方で、基地局建設コストやローミング費用などが重くのしかかり、2022年度は収益増と同時に営業費用も増加した。「年内には何とか頑張って月次を黒字化していきたい」(三木谷氏)というが、現状では2022年度第4四半期だけで1593億6900万円の営業費用を計上しており、同四半期の売り上げである286億8200万円を大きく上回っている。モバイル事業の収益は、単純化するとユーザー数×ARPUで、これを短期間で5倍以上に増やすのは不可能に近い。鍵になるのは、コスト削減だ。
まず、基地局建設のための設備投資は、人口カバー率が98%を超えたことで「一巡してきた」。楽天モバイルは、2022年末に5万2003局だった基地局数を今後約1年で6万局超に増加させる予定だが、拡大のペースは以前よりも緩やかになっている。人口カバー率の増加は、設備投資だけでなく、KDDIへのローミングコストを削減することにも寄与する。自社回線のエリアが広ければ、おのずとKDDI回線に接続する頻度が下がっていくからだ。
実際、楽天モバイルは自社エリアの拡大に伴い、ローミングを徐々に停止している。その成果もあって、ローミングエリアでのデータ使用量は2022年第4四半期で5%にまで低下した。6万超の基地局で人口カバー率が98%に達すれば、その割合はさらに下がり、2%前後になる。ローミング費用を受け取る側であるKDDIの決算を見ても、グループMVNO収入とローミング収入の合計は四半期ごとに低下している。KDDIの代表取締役社長、高橋誠氏によると、「当初の想定より遅いスピードで終了している状況」だというが、来期(2024年3月期)は「それ(今期)より少なくなる」との見通しだ。
さらに、マーケティングやオペレーションのコストも削減していく。マーケティングは、大々的に展開していたテレビCMを減らし、ネットやリファラル(紹介)マーケティングにシフト。決算説明会の翌日から、紹介キャンペーンも開始した。テレビCMを削減することで新規獲得に悪影響を及ぼす恐れもありそうだが、三木谷氏はその懸念を一蹴。「今までの携帯電話会社はどちらかと言うとテレビCMに頼ったマスマーケティングが中心だったが、既にわれわれはインターネット中心に切り替えている。影響はほぼない」と語った。
これと同時に、オンラインでの新規獲得も強化していく。三木谷氏によると、「オンライン(契約)の人がワンクリックで加入からアクティベーションまでできる仕組みを近々発表できる」という。その際に活用するのが「楽天モバイルにとって大変な武器になる」(同)というeSIMだ。実際、既に楽天モバイルの場合、「既に70%ぐらいの方がオンラインサインアップになってきている」(同)。マーケティングでオンラインを重視し、新たな仕組みを入れることで、その比率がさらに上がる可能性は高い。
結果として、リアルな店舗にかけていたコストを削減できる見通しも立てられる。三木谷氏は「是々非々で考えたい」としながら、「黒字のところは残すし、赤字のところはクローズする」と語っている。大小合わせた楽天モバイルのショップは、2022年度で1200店舗。おおむね他社の半分程度ではあるが、契約者数を考えるとまだまだ多すぎる印象も受ける。1月には約200店舗の郵便局内ショップを廃止することを発表したばかりだが、コスト削減の圧力が強まる中、こうした動きは今後も続いていきそうだ。
これらの取り組みを通じて、楽天モバイルは「年末までに月間のオペレーションコストを150億円削減する」(同)という。年間で1800億円のコストが圧縮される見通しで、これが実現できれば、三木谷氏の語っていた月次の黒字化が見えてくる。
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