3キャリアが「5G SA」開始も、真のメリットは享受できず 普及に向けた課題とは:石野純也のMobile Eye(2/3 ページ)
KDDIは、4月12日にコンシューマー向けの「5G SA(Stand Alone)」を開始したことで、3キャリアのサービスが出そろった。ただ、現時点で真の5Gのメリットを十分享受できるとは言いがたい。エリアや端末、ユースケースなどで課題が多い。
エリア、速度、端末……コンシューマー向けに解決すべき5G SAの課題
ネットワークに付加価値をつけ、オプションの料金でARPU(1ユーザーあたりからの平均収入)を上げていくというのはキャリアのビジネスとして王道だが、現状では、その目的は果たせていない。有料化までの道のりは、まだまだ長いといえる。理由の1つは、エリアの狭さだ。現時点では、“点”でしかエリアが構築されておらず、狙ってその場所に行かない限り、5G SAで通信するのは難しい。
例えば、ドコモの場合、東京都で5G SAを利用できるのは、千代田区丸の内2丁目周辺のわずか1カ所。東京駅の目の前がエリア化されているものの、その範囲は非常に狭い。大阪府など、“5G SAスポット”が点在している地域もあるが、それでも広いとは言いがたい状況だ。しかも、このエリアスポットは、サービスインした2022年8月からほとんど更新されていない。約8カ月たっているにもかかわらずだ。
ソフトバンクはもう少しエリアが広いものの、スポット的にしか提供されていないのはドコモと同じだ。東京都は駅や大学、ショップなどを中心に5G SAを利用でき、2023年4月や5月中旬までの予定まで示しているのはドコモより積極的だが、面展開できていないことに変わりはない。サービスイン直後のKDDIは、エリア自体が非公表。ユーザーがどこに行けば通信できるかも分からないのは不親切だ。手数料を払ってまでSIMカードを交換するメリットは見いだしづらい。
基地局の新設などは不要なため、簡単にエリアを広げられるように思える5G SAだが、複雑な問題もある。スループットが低下してしまうリスクが、それだ。NSAは4Gと5Gの両方を使って速度を上げている一方で、現状の5G SAは、4Gを利用できない。各キャリアが持つ周波数を全て5Gに転用できれば、少なくともNSAと同じにはなるものの、4Gの契約が残っているため、全ての周波数を切り替えるのは不可能だ。エリアごとに周波数の利用状況は異なるため、一括で5G SAを導入するのは難しい。
実際、ドコモが法人向けの5G SAをスタートした際も、当初の理論値は下り最大1.7Gbpsで、NSAの5Gと比べ、理論値が半減以下になっていた。それでも1Gbpsを超えているためスマートフォンとしては十分な速度だが、あえて通信速度が落ちる方式に切り替えるユーザーは少ないだろう。この問題を解消するには、5Gユーザーの増加に合わせ、徐々に5Gに転用する周波数を増やしていくか、5G SAで4Gを利用するオプションを導入する必要があるが、いずれにしても一朝一夕には実現できない。
対応端末もまだまだ限定的だ。ソフトバンクは、3月28日にiOS 16.4、iPadOS 16.4にアップデートした「iPhone 14」シリーズやM2チップを搭載したiPad Proを5G SAに対応させたが、ドコモはAndroidスマートフォン8機種とWi-Fiルーター1機種のみ。ハイエンドモデルが中心のため、機種数の増え方も緩やかだ。KDDIは、現時点だと「Galaxy S22」と「Galaxy S22 Ultra」の2機種でしか利用できない。「Galaxy S23」シリーズの発売と、既存モデルのアップデートで機種数は増えるが、ドコモと同様、ハイエンド限定でその数は8機種にとどまる。
ソフトバンクは、3月28日にiPhone 14シリーズなどに5G SAの提供を開始した。筆者所有のSIMカードだと5G SAのスイッチがグレーアウトしてしまったが、対応しているプランであれば有効化できる
iPhone 14シリーズだけとはいえ、シェアの高いiPhoneに対応した分、ソフトバンクは有利だが、別の問題もある。北米版以外のiPhoneはミリ波に非対応のため、先に挙げたNR-DCのメリットを生かすことができず、理論値の問題に直面する。
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