3キャリアが「5G SA」開始も、真のメリットは享受できず 普及に向けた課題とは:石野純也のMobile Eye(3/3 ページ)
KDDIは、4月12日にコンシューマー向けの「5G SA(Stand Alone)」を開始したことで、3キャリアのサービスが出そろった。ただ、現時点で真の5Gのメリットを十分享受できるとは言いがたい。エリアや端末、ユースケースなどで課題が多い。
5G SAの特徴を生かしたサービス開拓も急務、ネットワークスライシングには期待も
ネットワークを用途に合わせて仮想的に切り分けるネットワークスライシングや、コアネットワークに近い位置にサーバを置いて遅延を減らすMEC(Multi-access Edge Computing)といった5G SAの特徴を生かしたサービスも、現時点ではコンシューマー向けに提供されていない。エリアが狭く、ミリ波非対応の場所だと速度の向上も見込めず、5G SAならではのサービスがないとなると、ユーザーとして契約する動機がなくなる。
また、仮に上記のようなサービスがあったとしても、一般のコンシューマー向けにどのような価値を提供できるのかが、見えづらい。法人向けは、ネットワークスライシングで信頼性の高い通信を提供したり、MEC上に業務用のアプリを置いて低遅延で利用できるようにしたりと、サービスを組み立てやすい一方で、スマートフォンを使う一般のユーザーが飛びつきそうなキラーサービスは出ていない。各キャリアとも暗中模索といった状況で、それが5G SAのエリア展開にも反映されているように見える。
MECの低遅延を生かし、業務用のアプリケーションを端末ではなく、ネットワーク上に置いてアクセスするといったサービスは5G SAならではだが、その価値をコンシューマーに提供するのは難しい。画像はドコモが映像制作会社のカラーと検証したソリューションで、クリエイターが自宅から低遅延の制作ツールにアクセスできる
とはいえ、今後のサービス化に期待が持てそうな技術もある。KDDIが2022年3月に公開したネットワークスライシングの実証実験は、その1つだ。同実験は、ゲーム用に最適化した安定度の高いスライスをスマートフォンに適用。「PlayStation 4/5」に搭載される「PSリモートプレイ」が、どのように動くのかを確認することができた。スライスなしの場合、ストリーミング中にゲームが瞬断してしまうのに対し、ゲーム用スライスでは操作に対して、映像がスムーズに応答していた。
2022年3月当時はアプリごとにスライスを適用できず、メールやブラウジングまでゲーム用の設定で通信してしまっていたが、2022年12月には「URSP(User equipment Route Selection Policy)」を5GCとスマートフォンに適用した実験に成功。これは、アプリごとにスライスを切り分ける仕組みで、ゲームの操作と映像を送受信するパケットだけが専用のスライスを通すことが可能になった。料金次第だが、この機能を応用すれば、安定的にゲームを楽しめるスライスを有料で提供するといったサービスが実現できそうだ。
ソフトバンクのSoftBank AirのようなFWA(Fixed Wireless Access)のサービスも、5G SAをコンシューマー向けに展開しやすい分野といえる。SoftBank Airの端末であるAirターミナルは、当初、帯域幅の広い周波数だけに接続するよう、対応周波数が2.5GHz帯のAXGPに限定されていた。その後、3.5GHz帯のTD-LTEや2.1GHz帯のLTEにも拡大されたが、今でもプラチナバンドなどには接続できない。5G SAも、4G側に流れるトラフィックを抑える手段として活用しやすい。
KDDIのサービスインでようやく大手3キャリアの5G SAが出そろった格好だが、普及のためには、エリアや端末の拡大とともに、こうしたユースケースの事例を積み重ねていく必要がある。各社とも有料化を示唆しているものの、実現するのは、その先の話になりそうだ。
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