ドコモが通信品質改善を本格化しても残る疑問 他社との差を埋めるのに必要なことは?:石野純也のMobile Eye(2/3 ページ)
ドコモはパケ詰まりに対して基地局のチューニングや増設を行ってきたが、場所や時間帯によっては、依然として通信品質が低下する。このような状況を受け、ドコモは年末にかけて新たな対策を実施する。通信品質対策を本格化したドコモだが、他社に後れを取ってしまったのも事実だ。
品質低下エリアを先回りして特定、Multi-User MIMOの導入や上りの品質改善も
品質改善は、まず、それが必要なスポットを区別するところから始まる。通信品質が悪化している箇所が分からなければ、対策の施しようがないからだ。この部分で、ドコモは他社の後塵を拝していたと同時に、対応が後手に回っていた面があることは否めない。先回りができず、ユーザーの不満が噴出してしまったのはその証拠といえる。この状況を改善するため、ドコモは機械学習やLLM(大規模言語モデル)付加価値基盤を活用し、通信品質悪化の予兆検知に乗り出す。
混雑エリアの特定には、基地局と端末が通信する際のトラフィックデータを収集。これにユーザーが申告した情報を掛け合わせて機械学習で処理を行うことで、通信品質の劣化が起こる予兆のあるエリアを導き出す。エリアはメッシュ単位に分け、範囲を絞っていく。この情報をもとに、「ドコモスピードテストアプリ」から得られた情報や、LLM付加価値基盤で分析したSNSの声を使い、優先度や場所の特定をしていくという。
前者の機械学習を活用した予兆検知は比較的早く導入しており、「4月、5月の時点でお客さまから声をいただいたとき、かなりトラフィックが高い、もしくは今後高まるであろうとピックアップし、モニタリングしてきた」(同)。これに、LLM付加価値基盤を掛け合わせてユーザーの声を分析し、「鉄道路線が重要だと認識した」(同)という。SNSに投稿される“生の声”を活用することで、「分析がものすごく速くなった」(同)。これらの取り組みは、「われわれがもっと早く人流が戻ることを予想できていれば、的確な対応ができた」(同)という反省に基づいている。
現状分析の速度や精度を上げ、対策を以前よりもスピーディーに行うのと同時に、技術的な解決策も模索していく。その1つが、Massive MIMOとMulti-User MIMO(MU-MIMO)に対応した基地局の導入だ。Massive MIMOとは、多素子アンテナのことで、複数の端末が同時に通信する際に効率を上げるために活用される。これを複数のユーザーに分散させ、利用できるようにするのがMU-MIMOだ。その特性上、人が多く集まって混雑するような場所で通信を安定させる効果が高いといわれている。
この基地局を導入することで、「システム容量が2倍になることを確認済み」(同)だ。従来のMassive MIMOは、アンテナの数が多くなるため、大型で消費電力も高かった。そのため、基地局の設置場所に制約のある都市部では、地権者やビルのオーナーに断られてしまうこともあったという。また、一般的な基地局と比べると、耐風性や耐震性の基準を満たせないケースも増えてしまう。小型で低消費電力のものを導入することで、この「設置基準がかなり緩和される」(同)。混雑対策に効果のあるMU-MIMOの展開を図りやすくなったという。
これに加え、5Gの上りの通信品質を改善するため、経路選択を最適化する。基地局から電波を発射する下りの通信とは逆で、上りは端末側から電波を飛ばす。基地局に比べると小型で出力も限定されているため、上りはセル端に近づければ近づくほど通信品質が悪化しやすい。ただ、アプリやサイトが下りだけを使うことはまれだ。端末から上がるリクエストにリアクションする場合、双方向通信が必要になる。いくら下りが速くても、上りの通信ができなければ、全体の体感が悪化してしまうというわけだ。
上りの品質改善は、このような事態を防ぐためのものだ。ドコモによると、基地局側で最適な通信経路を選択する機能を高度化した結果、5Gのセルエッジで、上りのスループットが2倍に向上したという。これらの日常的な通信品質の対策に加え、先に挙げた野外フェスなど、イベント時の輻輳(ふくそう)対策も強化していく。こちらは、帯域幅の広い5Gに対応した可搬型基地局や移動基地局車を増強。イベント開催地周辺に設置されている常設の基地局も、帯域幅を増やすなどして通信品質の向上を図る。
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