なぜパケ詰まりが起こるのか(後編):「コロナ禍の変化」と「3キャリアの5G整備計画」から探る(3/3 ページ)
市街地にて「スマホは圏内だが通信が遅く、つながりにくい状態」、いわゆる「パケ詰まり」について考察する。今回はコロナ禍を経て、都市部で急にパケ詰まりが起きる理由、大手3キャリアの5Gエリア構築戦略の違いといった点からパケ詰まりの理由に迫る。
KDDIは都市部の5Gを集中整備、全国カバー率も90%超え
KDDIは真っ先に5Gと5G転用周波数帯を、混雑する都心の鉄道駅と駅周辺のカバーに集中して展開。2021年9月には山手線と大阪環状線のホームと沿線、周辺市街地を5Gでカバーしたことを発表。その後もカバーする鉄道路線を大幅に増やしている。また、プラチナバンド700MHz帯の転用もあり、2023年3月末時点で5G人口カバー率90%を達成した。
当時はコロナ禍で都市部の人もまばらだったが、この取り組みが2023年現在のパケ詰まり対策や先ほどのスピードテスト、移動中のライブ配信再生テストの良好な結果につながったと考えていいだろう。都市部での各テスト中に調べたところ、5G Sub-6 3.7GHz帯と転用の3.5GHz帯を組み合わせて整備しており、最近だとUQ WiMAXの転用5Gである2.5GHz帯が使われていることも確認できた。
象徴的な数字が、総務省の電波の利用状況調査による2022年3月時点の関東の基地局数とカバーエリアに表れている。KDDIの関東における5G Sub-6 3.7GHz帯の基地局数は2076局と多いが、この基地局数を狭いエリアに集中させている。エリアマップの傾向にも見られるが、都心の鉄道駅や路線、商業地に対して密に5G基地局を整備したと考えられる。
ソフトバンクは最速で5G全国カバー率90%超え、無制限プランに速度制限も
転用5Gによる全国カバー率の拡大に力を入れたのがソフトバンクだ。700MHz帯と1.7GHz帯をうまく活用し、2022年3月には最速で人口カバー率90%を突破した。
市街地では周波数再編の終了措置(放送業務用の無線局)が2021年ごろ段階的に終わりし利用しやすくなった転用5Gの3.4GHz帯を即座に活用し、5G Sub-6 3.7GHz帯とあわせて5Gエリア拡大を進めている。
高速な5G Sub-6の活用にこだわらず細かく基地局を整備して5Gを広げる姿勢は、PHS事業のウィルコムが運用したマイクロセルのロケーションを継承している分、都市部の細かい基地局整備に強いからという側面もあるのだろう。
また、新プラン「ペイトク無制限」では通信量200GB/月以上の利用ユーザーに対して速度制限を行う。これを「無制限」とうたうのはともかく、今後の通信需要の増加を考えるとプランによる制限は通信インフラの混雑防止に対して有効な手段なのは確かだ。
高速5Gの広さを重視したドコモ、都市部の5Gやパケ詰まり対策は12月末に期待
ドコモの5Gは、総務省や国のデジタル田園都市構想と歩調を合わせているように見える部分が多い。政府が株式の多くを持つNTTである以上自然な話ではあるが、周波数割り当て時の基盤展開率97%、全国市区町村に5Gを整備するなど負担の大きい目標を持たざるを得ないキャリアといえる。
2021年12月以後、岸田政権のデジタル田園都市国家構想によって基盤展開率に加えて、23年度末に全体の「5G人口カバー率95%」「全国市区町村に5G基地局整備」の要請が加わった。以後も「国道の道路カバー率99%」などが追加されている。これらを実現するには、山岳地帯や離島の5G整備が必要になる。総務省「デジタル田園都市国家インフラ整備計画(改訂版)概要 令和5年4月25日」より
現在は当初からの計画の5G Sub-6基地局を整備し基盤展開率の拡大に加えて、2024年3月に向けた転用5Gも活用しての人口カバー率90%以上と、全国の市区町村に5G展開という計画も進めている「5GビジネスデザインWG事業者ヒアリング2023年2月9日」より
極端な言い方をすれば、ドコモは人口の半分を占める東名阪エリアのパケ詰まり対策を進めつつ、2024年3月に向けた政府計画達成のために離島などの5G Sub-6エリアの整備も並行して進めざるを得ない状況にある。
ドコモは全市区町村への基地局を整備することから、八丈島からさらに離れた離島かつ、日本国内で最も人口の少ない市町村の青ヶ島村にも12月末までに5Gを整備する。この写真を撮影できる、1日の訪問者数が数名単位の展望台が5Gエリアとなる(交通網の都合上、1日に上陸できる人数が限られるため)
パケ詰まりに関連する、ドコモの都市部の5G整備に話を戻そう。高速な5G Sub-6に関しては基地局数も多く全国エリアマップを見ても他社より広く整備している。ではなぜパケ詰まりが起こるのだろうか。
理由の1つが、ドコモは都市部の5Gエリアマップ(2023年10月時点)を見る限り、ぱっと見だと5Gエリアが広そうに見えて、明らかに混雑しそうな駅や駅周辺の繁華街にもかかわらず5G Sub-6を整備できてないエリアの穴が散見されること。コロナ禍でインターネット利用の増えた人流が戻り始めると同時に、混雑でパケ詰まりの声が起きやすくなるのも不思議ではない。
ここまでの内容を他キャリアと比べてみよう。KDDIは真っ先に混雑が予測される都市部の駅や駅周辺エリアに対してSub-6帯と転用5Gの3.5GH帯を用いて極端な集中整備を実施した。だが、ドコモは都市部をSub-6主体である程度広くカバーしたものの、エリアの穴が多く、混雑エリアに対する5Gの集中整備というう点でも一歩遅れていたと考えられる。
ソフトバンクとドコモの都市部の差は、周波数移行によって両者が新しく利用可能になった3.4GHz帯の整備方針の差が大きいだろう。ソフトバンクは2021年から2022年春にかけて3.4GHz帯の転用5G基地局をかなりのハイペースで整備し(2022年3月時点で5G基地局11,377局、4G基地局67局)、Sub-6の3.7GHz帯とともにつながりやすい5Gエリアを構築した。
一方、ドコモも同じ時期から3.4GHz帯の整備を4Gにてハイペースで始めたが、2022年3月時点の基地局数はソフトバンクの半分以下の規模(2022年3月時点で4G基地局4909局)となっている。また、ドコモが3.4GHzの転用5Gを開始したのはソフトバンクの1年遅れとなる2022年3月からだ。
当初の総務省の方針に沿った全国の基盤展開率や市区町村カバーよりも、実際の需要や人口カバー率を重視して都市部を重点的に整備したキャリアの方が、現在は快適な状況を実現できているといえる。
根本的な対策としては、ドコモもリリースや説明会で必ず触れているように、5G基地局を5G転用も含めて需要を予測しつつ基地局を整備、増強していくのが近道だと推測される。
この件について、冒頭でも触れたように10月10日にドコモは「ドコモ通信品質改善の取り組みについて」の説明会を実施した。内容をざっと説明すると以下のようになる。
- 調査データやSNSを分析しエリアの品質を管理する
- 300億円の先行投資で、全国2000カ所以上の点と、鉄道導線の線のエリアに対し設備増設などの集中対策を行う
これらは、他社と比べると後手に回っている感はある。とはいえ、予兆検知に関してはトラフィックを主要なデータとして扱うのであれば効果があるだろう。また、5G上り品質に対して5Gのエリア端での経路に4Gを選択する機能の高度化を進めるという。他社でも実施されている内容だが、これに加えて5Gや転用5G設備の増強が進めば、通信がある程度快適になる可能性は高い。
これらは将来需要を見据えた対策とのことなので、冒頭で提示したようにコロナ禍後の通信量の増大を見越した整備ならかなり期待できる内容のはずだ。2023年12月の繁華街や、当初の5G整備計画の一区切りとなる2024年3月に、市街地でのパケ詰まりがおおむね気にならなくなることを期待したい。
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