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「格安スマホ」の10年と今後 政府の圧力でハシゴを外されたが、2024年は追い風が吹く 石川温氏が語る(2/2 ページ)

テレコムサービス協会MVNO委員会が3月22日に「モバイルフォーラム2024」を開催。スマートフォン/ケータイジャーナリストの石川温氏による基調講演「格安スマホと呼ばれて早10年 MVNOはMNOとどう棲み分けるべきか」の内容を紹介する。MVNOを巡る10年を振り返りつつ、MNOと差別化を図れるポイントを探る。

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大きかったahamoショック、ハシゴを外されたMVNO

 MVNO業界を振り返ると、2020年12月に発表され、2021年3月から始まったドコモのahamoが与えたインパクトは非常に大きかった。ahamoに続き、KDDIやソフトバンクがオンライン専用ブランドで20GBプランを提供し、日本の通信料金が下がったという評価にもつながっていったが、石川氏は「むしろ圧力で(値下げが)実現した」という見方。


ahamoの登場やサブブランドの値下げはMVNOに大きな影響を与えた

 「それまで総務省は競争政策を進めてMVNOを盛り上げようとしてきたが、急にハシゴを外されて突然ahamoが出てきた。国民にとっては通信料が安くなってよかったが、MVNO業界にとっては厳しかった」

 また「関係があるか分からないが」と断った上で、「ドコモは収益減によってネットワーク品質が若干下がったような印象。振り返ってみると、本当にこれが国民にとってよかったのか、検証の余地がある」とした。

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 政府圧力で他社が料金を値下げし、安い料金プランを打ち出して新規参入した楽天モバイルもハシゴを外された格好だ。既存3社の規模が大きい中での参入は「無理があった」。それも当初、4G用に楽天モバイルに割り当てられた周波数帯は1.7GHz帯だけ。石川氏は「参入当時から楽天モバイルにプラチナバンドを渡していればだいぶ違ったのではないか。過去、新規参入しては撤退することを繰り返してきて、4社目にプラチナバンドが必要なのは分かっていたこと」と総務省の周波数割当に疑問を呈した。

 とはいえ、総務省の功績も当然ある。石川氏が評価しているのは、端末のSIMフリー化を義務化したことや契約解除料の見直し、期間拘束プランの撤廃などだ。以前、携帯電話の契約は“2年縛り”が当たり前で、設定された期間以外に解約すると1万円ほどの契約解除料がかかった。それがなくなったことで、ユーザーは非常にキャリアの乗り換えがしやすくなった。石川氏は「縛られたユーザーを解放できるのは総務省だけ。キャリアはやりたがらない。総務省はこれだけやっていればよかったのでは。昨今のMNPワンストップ化も、MNPが始まった頃からやってもよかった」と持論を述べた。


総務省の施策によりユーザーの流動性が上がった

接続料の低廉化とMNOのさり気ない値上げによって、2024年はMVNOにとって追い風に

 石川氏は、2024年にMVNOに若干の追い風が吹くと予想する。

 追い風の1つは接続料の低廉化。接続料が下がることで収益が安定し、先が読めるようになることも大きいという。今後、値下げは緩やかになるかもしれないが、「この先も続いていくと思う」と語った。


接続料は下がり続けている。今後も緩やかに下がり続けると予想する

 2つ目はガイドライン見直しでMVNO上位2社、IIJとオプテージへの規制が撤廃されたこと。オプテージはこれにいち早く反応し、mineoの利用者特典制度を見直し、契約年数に応じた長期利用特典へと変更した。「MNOがやれないことをMVNOができるようになって非常によかった。長期契約で安くなるといったような分かりやすいことをMVNOはやってほしい」と石川氏は他のMVNOへの波及も期待していた。


規制対象から外れたことで、mineoは長期利用特典の提供を開始した

 3つ目はMNOが値上げ基調であること。ここ数年の政府の値下げ圧力により、MNOは収益が悪化。世間的にもさまざまなものが値上げされている中、MNOとしても「あからさまに比較できるような分かりやすいものではなく、パッと見分かりにくいが、結果として実は値上げしているようなプラン」が新料金プランとして導入されていると指摘する。

 それがKDDIの「auマネ活プラン」、ソフトバンクの「ペイトク」、ドコモの「ahamoポイ活」だ。楽天モバイルが参入したことによって、4社は経済圏の戦いになっているが、各社ともポイントを訴求し、ポイントと絡めた料金プランを導入しているが、どうすればおトクになるかが分かりにくい。

 例えば、ahamoポイ活は、ahamoの20GBプランに80GBの大盛りオプションを足し、さらには2200円のポイ活オプションをセットにして月額7150円にすると、d払いの支払いでポイント還元率が3%にアップ。さらに10%になるキャンペーンを展開する、というものになっている。


MNOの料金プランの複雑さを象徴するようなahamoポイ活プラン。「月4000ポイントをもらうために、2200円のオプション料金を払わなければいけない。さらにd払いで月4万円支払わなければいけないという、本当に得なのかどうなのかがよく分からない設計」(石川氏)

 MNO4社は「お得さをアピールするために料金体系が複雑で分かりにくくなってきている」と指摘。ワンプランでシンプルを売りにしてきた楽天モバイルも「最強家族プログラム」や「最強青春プログラム」を導入して、「3社と同じ土俵に乗る戦略に変わりつつある。今後、楽天モバイルもより複雑化していくのでは」と述べた。

 「今の楽天モバイルはARPUをいかに上げるかが重要なので、経済圏と組み合わせた展開が今後進んでいくと思う」

 MNOの料金が複雑化する状況の中、MVNOはどうすべきか。ドコモのエコノミーMVNOであるトーンモバイルが、光回線やdカード割を組み合わせなくても安く使えることからユーザーに指名買いされているというエピソードを紹介しつつ、「MVNOがシンプルで安いことは、この10年間変わっていない。今後10年もその軸はずらさず、ユーザーに優しい分かりやすい料金体系が重要」とアドバイスした。


石川氏は「MVNOはシンプルで安く」あるべきとアドバイス

 なお、MVNOでも生活経済圏を構築しているイオンモバイルはこれに当てはまらない。ただ、「MNO4社のポイントを意識しない、経済圏を面倒くさいと思っている人を狙っていくのはアリなのでは。シンプルで安くということが、MVNOに求められる1つの答え」と石川氏は語っていた。

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